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「さぁさぁ、こちらへどうぞ」


私が木に頭をくっつける前に、まるで自宅に案内するような雰囲気でフライア様が仕切り、屋敷にアシェル殿下たちを招き入れる。

フライア様にツッコミを入れる暇はなかった。なぜなら、ようやくアシェル殿下が突っ立っている元婚約者の存在に気付いたからだ。


「あれ? 君はあの時の! キャンベル侯爵家の!」


なぜかアシェル殿下は嬉しそうに彼に近づき、ヘビを彼の目の前まで持ってきた。


「この間はしっかり見せられなかったな! さぁ今度こそ見てくれ! この美しい鱗を!」


「……懐かしい光景ね」


婚約の話が初耳で頭がフリーズ状態の私を屋敷の中に促そうとしたナディア様が呟く。


「でもトカゲで気絶したなら……ってやっぱりこうなるわよね」


元婚約者はトカゲの時と同様、ヘビを目の前にして伸びてしまった。屋敷に入ろうとしていたフライア様はその様子を見て感心したように拍手している。


「あれ? どうしたんだ?」


「外の馬車まで運んでくれ」


不思議そうなアシェル殿下の横でゼイン様が護衛騎士たちに指示を出す。騎士たちに両脇を抱えられて元婚約者は気絶しながら、ようやく退場した。



屋敷に入り、メリーが持ってきた入れ物にヘビは入れられた。


「そんなわけで。婚約しても大丈夫ならこの書類にサインして。そうそう! ヘビの名前はどんなのがいいかな?」


目の前に婚約に関する書類がバサバサ並べられるが、私の頭には疑問符しかない。


「説明が雑すぎない?」


「殿下、さすがにそれはマズイです」


フライア様とゼイン様が抗議の声を上げる中、ナディア様は冷静だった。


「王命での婚約と言えばよっぽどでなければ断れません。でもそれをせずにわざわざここまで出向いてエリーに許可を求めておられるのは、何か理由があるのでしょうか?」


「簡単だよ。ハウスブルク伯爵に話を持って行ったら、娘が良いと言えば婚約してもいいって言ってたからね。クリストファーには会うたびに嫌がらせの様に仕事を押し付けられそうになるけど」


兄は相変わらず仕事漬けのようだ。王子に仕事を押し付けるってどうなのだろうか。過労気味なんだろうか。


「なぜエリーと婚約したいのですか?」


なぜか当事者の私は置いてきぼりで話が進む。元婚約者の襲来から頭が良く働かないから助かるのではあるが。頭の中の疑問を口から上手く言葉にできない。


「え? 君だってロレンス王太子が好きだから結婚するんだろう? スチュアートのやらかしで君は選り取り見取りなんだから」


「……そうですわね……」


ナディア様は恥ずかしいのかほんのり顔を赤くする。


「彼女と一緒にいたいから婚約を申し込んでいるのだが。幸い、父からも好きなご令嬢を連れてこいと言われてるしね」


「ンンッ……オホンゴホン! ちょっと私にはこの部屋は寒いので退出させていただきますわ!」


フライア様がわざとらしい咳をしつつ、ボソッと、独り身にはやってらんないわーと呟きながらゼイン様とナディア様を促して出て行こうとする。ゼイン様は渋りながらも扉の外にいますねとヘビの入った入れ物を抱えて出て行った。


いつもお読みいただきありがとうございます!

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