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でも、その色を見てやっぱりと感じてしまう。

彼の瞳を見るのがずっと怖かった。見下すまでいかなくても軽んじられているのはよく分かっていた。彼と目が合ってしまえばそれを認めなければいけないようで、事実を突きつけられるようで嫌だった。

でも視線を受けとめてしまえばなんてことはなかった。

今までの私は一体、何を恐れていたのか。


「融資なら他の家に頼んでもいいではないですか。仲の良い方もたくさんいらっしゃるでしょうし。条件次第では我が家よりも有利に取引できるかもしれません」


私の返事に彼は顔を歪めた。

さすがに彼でも理解しているようだ。今のキャンベル侯爵家に融資してくれる高位貴族がいないことを。

呪いの道具の仮説がキャンベル侯爵家に伝えられていない。伝えられたのはほんの一握りの上層部だが、それまでキャンベル侯爵家はその一握りに入っていたはずだった。

それは、キャンベル侯爵家が重臣から外されたことを意味する。もう子供ではない、学園在学中の嫡男の騒動によってそうなってしまった家に融資をする高位貴族はいない。

商売で成り上がった男爵家や子爵家なら高位貴族とのつながり欲しさに融資してくれるところもあるだろう。ただ、プライドの高いキャンベル侯爵家の面々が成り上がりと呼ばれる男爵や子爵を相手にしたがるとも思えない。


それに……彼はあれだけ熱に浮かされたように一緒に過ごしたルルをあの女と呼んだ。

ルルと引き離されてしばらくたった後は彼女と呼んでいたはずだ。


「あぁ。なんだそういうことか」


ぼんやり考え事をしていると、急に彼が笑い出した。しかし、その笑みは友好的なものではなく嘲りを含んでいるように見えた。


「ハウスブルク伯爵家から解消を言い出すと金にならないから、侯爵家からなんとか婚約解消を言い出させようとしているのか。賠償金や慰謝料目当てに」


お金目当てだったわけではないけれど、ある意味、彼は私の心の内を言い当てている。彼が嫌々私と結婚するくらいなら今の時点で婚約は解消した方がいい。私だって、見下されたり、叩かれたりするのを喜ぶ趣味はない。私から婚約を解消したいと父に言っても相手にされないが、彼も嫌なら話は別だ。


「いや、違うか。この婚約がなくなったらお前の嫁ぎ先なんてほとんどない。やっぱりあの女のことを根に持っているのか。だからあの変人の第2王子を誑かして俺を嫉妬させようとしたのか。周りがうるさいから持って行った贈り物を突き返したり、ランチの誘いを断ったりしたのもそれで、か。エリーゼ、見かけによらず性悪だったんだな」


彼はこれが正解だろうと言わんばかりに2つ目の見解を口にする。あまりに見当違いな見解と久しぶりに彼に名前を呼ばれた感覚に吐き気がしそうだ。

同時に彼が自分の意志で贈り物を持ってきたりしていなかったことに納得し、安堵した。


「第2王子殿下は変人ではありません。あれだけ夢中になれるものがあるのは素晴らしい事です。それに噂を鵜呑みにして女性に手を上げるような方に性悪と呼ばれる謂れはありません」


私にしては頑張って言い放った嫌味だ。

この国では愛人や妾は許されても女性への暴力は許されない。一度叩いただけで大きな罪になったりはしないが、露見すれば社交界で白い目で見られる。


「へぇ……俺が叩いたと証明できるのか? 目撃者もいないのに?」


私を見下し続けたことで彼は落ち着きを取り戻したらしい。最初の自分の行動を開き直って揉み消せると踏んでいるようだ。嫌味にも取れる笑みまで浮かべている。

頬が腫れたら階段から足を滑らせたとか、転んだでは言い訳できない。でも彼が叩いたという証拠は私の証言しかない。目撃者がいないなら彼に否定されて虚言だと思われてしまう。

悔しくてぐっと歯を食いしばる。頬はズキズキと痛んだ。


「残念だったな。理由が分かれば拗ねてるお前もなんだか可愛く見えてくるな。あの女よりはマシだ。よく考えたら殿下がお前を相手にするはずもないし」


何故私があなたに好意を持っていて、ルルの件で拗ねているというのが前提なのか。

しかも呪いの道具の効果とはいえあれだけ一緒にいたルルへの掌返しがすごい。

私の腕を掴んだ時の彼は必死な様子だった。それだけ今は保身が大切という事か。


「私は……あなたとは婚約を続けたくはありません」


「まだ拗ねているのか。さすがに限度があるぞ。呪いの道具のせいなんだからあれは仕方がないだろう。愛人を囲ったわけでもないからいい加減納得したらどうだ?」


あくまでも彼は私を見下した態度を崩さない。私や他を見下すことが彼の支えなのだろう。


「あらあら。やっぱり類は友を呼ぶのね。さすがあの殿下のお友達だわ」


唇を噛んでいると、ドアが開くと同時に聞き覚えのある声がした。


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