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お読みいただきありがとうございます!
なんだかお茶会シーンが想定より長くなってしまいました。
拙い文章ですがどうぞよろしくお願いいたします。
「この間は仮面舞踏会に来てくれてありがとう」
悲し気な空気が流れ始めたところで、彼女はパッと嬉しそうに視線を上げて表情を変えた。
そこにいたのは王子の婚約者だった特別な令嬢ではなく、高貴で完璧な淑女であるナディア・バイロンではなく、普通の少女がいた。
普通の少女と表現するにはいささか美少女であるし、公爵令嬢という身分ではあるが。
彼女も一人の女の子なのだと思わせるには十分な、作られたわけではないあどけない笑顔だった。
まず、既に婚約解消したクロエ様がやや興奮気味に仮面舞踏会の感想を述べる。
「お料理は建国パーティーより美味でしたわ!」
クロエ様は料理やスイーツがいかに素晴らしかったかを目を輝かせて力説する。王宮行事の料理より美味しいと彼女も感じたようだ。
食べ物の話しかしないので、場の空気が段々と和やかになる。
相槌を打ちながらナディア様は菓子を勧めている。
フライア様は私と同じで参加者の方が褒めちぎってくれるのが嬉しかったようだ。ショーも初めて見るものばかりで感動していた。
彼女は少女のように恥じらいながら話した。最初のツンツンした様子は鳴りを潜め、可愛くて微笑ましい。
「父である侯爵が現在の婚約を解消しないので、こうなれば父を脅すしかありませんわ。どうも父には愛人がいるようなのです。帳簿を見ていて不正ではないけれど不審な支出がありましたので。突き止めてそれをネタに脅しますわ。うちの母は愛人を許さないので」
少女のように恥じらっていたが、今度は拳を握りしめている。
強い。私は父の弱みを握って説得しようなんて考えもしなかった。
もちろん仕事人間の父が大それた不正をしているとは思えないし、私が暴くこともできないだろう。愛人の線もないと思う。
「あの浮気男はいまさらご機嫌取りをしてきていますが、とっくに愛想は尽きています。絶対に許しません。魅了の呪いが何ですか! 陰で私のことを気が強いだけの女とか言っておいて」
フライア様も結婚したら愛人は絶対許さないだろうという気迫が見える。
何としてでも自分の道を切り拓こうとする姿は、ウジウジして彼の贈り物を突っ返していただけの私とは大違いだ。
「フライア様は気が強いのではなく、芯の通った素晴らしい方だと思いますわ。エリーゼ様はどうでした?」
ナディア様の問いに一斉に私に視線が集まる。私は不満ばかりで大して行動していない自分の駄目さ加減に落ち込んでいた。
「あ、はい……夢のような時間でした……」
「気になっているのだけど、アシェル殿下とゼイン様のどっちにされますの? 舞踏会以降、学園では接点がなさそうでしたけれど」
ナディア様は首をかしげながら、私の目の前に爆弾を置いた。
「え……は…………い? なぜそのお二方が……?」
「我が公爵家の使用人は優秀なのです。まぁ仮面舞踏会で不埒な真似をする輩がいないか目を光らせていただけなんですけれど。あ、選択肢にザカリー様も一応入れておきましょうか、一応」
ナディア様はさらに爆弾発言を続けた。イケメン王子とオタマジャクシという喜劇は公爵家の使用人にばっちり見られていた。気が付かなかった。
「あ、あの……私は全くそんなつもりは……」
全くそんなつもりはない。
確かに浮気を考えてはいたが、あのお二方とどうにかなろうなんていう気は毛頭ないし、そもそもありえない。
顔良し、身分良し、魅了の呪いで女性にいかないという三拍子そろった二人を前にしたときは心臓が少しだけうるさかったが……いや、アシェル殿下の時のドキドキはときめきではなく、違う意味のドキドキだ。




