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第28話 塩で荒稼ぎィィ!

 翌日は朝から商業組合へと向かう。

 勝手に露天商を開けば、怒られるでは済まないのだ。きちんと商業組合に登録しておかなければならない。


「すみません、この町の商業組合はどこにあるのでしょう?」


 探すより聞いた方が早い。朝食を済ませてチェックアウトの際に宿の人に聞いてみる。


「ご案内させますよ。少々お待ちください。」


 そう言って受付の男は奥から一人の女性、いや、女の子を連れてくる。見習いか何かなのだろうか。


「ティオミナ、この方を商業組合にご案内なさい。」

「承知しました。」


 丁寧に返事をするが、ティオミナは少し怪訝そうな表情をする。


「こちらの方、でしょうか?」


 裕はどこからどう見ても子どもだ。身なりは商人の子という程度には整っているものの、本人が商いをするようには見えない。

 エレアーネに至っては、やたらと綺麗なボロを纏う変な子だ。バサバサの金髪は手入れをしているように見えないし、痩せた頬は栄養不足をありありと感じさせる。

 まるで浮浪児を綺麗に洗ったかのようである。

 現代日本ならば、虐待を受けている、と通報されること間違い無いだろう。


「そちらの方々です。丁重にお願いしますよ。」

「分かりました。では、こちらへ。」


 ティオミナを先頭に宿を出ると、大通りを歩いていく。

 すでに日は出ており、通りには足早に歩いていく者もいる。


「こちらの建物の三階、階段を登って右側に商業組合の支部がございます。」

「三階の右側? 他は違うのですか?」

「職人やハンターの組合もここに入っていますので、お間違えないようご注意ください。」


 雑居ビルというか、合同庁舎と言えばいいのだろうか。

 裕はティオミナに礼を言って建物に入っていく。

 階段を登り、三階に着くと、左右にカウンターが続いている。


「すみません、商業組合はこちらで良かったでしょうか?」


 裕はふよふよとカウンターの前に浮かびながら声をかける。


「はーい、どういったご用件でしょうか?」

「露天商の許可を頂きたいのですが。」

「子どもには許可できないよ。」


 もはやこのやり取りはお約束だ。どこに行っても、子ども相手にまともに取り合おうとする人はいない。


「あの、これでも私、アライでは商人として登録してるんですが。」


 裕が組合員証を提示すると、男性職員は「なんだってー!」と大袈裟に驚く。


「分かったら、露天商の許可をくださいな。」

「何を売るんですか?」

「お塩です。」

「な、なんだってーー!」


 ノストラダムスの大予言でもあるまいに、塩ごときで驚き過ぎである。


「ドドネル商会の方ですか? 今回は随分と遅かったじゃないですか! どこも塩がなくて」

「違いますよ。露天商の許可はいただけるんですか? ダメなら早く次の町に行きたいのですが。」


 興奮し、カウンターから身を乗り出しながら唾を飛ばしまくる男性職員から逃げるように後ずさり、裕はとにかく話を勧めようとする。


「違うんですか? 塩は本当にあるんでしょうね?」

「疑うなら帰ります。さようなら。」

「ああああ! すみません、すみません! そうそう、露天商ですね。どうぞどうぞ。こちらは町を出る前に返却をお願いします。税の納付も一緒に、税率は十四分の二です。」


 裕の冷たい態度に慌てながら許可証の札を出し、決まり文句の説明をする。裕は札を受け取ると、早速露天広場へと向かう。


 一々やかましい組合職員のいうことには、屋台が並ぶ広場の東側が露天商の場所らしい。



「お塩、お塩ですよ。お塩は」

「塩だって?」

「幾らだ?」


 裕が露天商コーナーの空いている場所に荷物を下し、呼び声を上げるやいなや、数人の男が群がってきた。


「これ一個で、銀貨一枚ほどです。」

「買った!」

「俺も買うぞ!」


 籠から岩塩を一掴み取り出すと、男たちは互いに押しのけ合いながら我先にと顔を突き出してくる。


「落ち着けやオッサン!」


 思わず裕は日本語で叫ぶ。男たちは何を言われたのか言葉は理解できなくとも、裕の気迫は分かったようだ。バツが悪そうに咳払いをしたりしている。


「一人銀貨二枚まで! 買い占めは認めません! それが嫌だという人には売りません! さあ、順番に並んでください。」


 裕はパンパンと手を叩いて大人たちを黙らせる。

 男たちが睨み合いながら列を作っている間に、裕は荷物から天秤を取り出す。塩は重量売り、これくらいが一キロだろう、という石を基準に幾つかの錘を用意してある。

 尚、通常は一キログラムで銅貨百十二枚で卸しているが、利幅を大きく上げて銀貨一枚として売り出す。裕としてはボッタくっているつもりなのだが、実は通常市価と変わらない。


「はい、銀貨一枚に銅貨十四枚。これくらいで良いですか?」

「これだけ、か。」

「何日かはもつでしょう? 足りないようならまた来ますよ。」

「本当か?」

「売れると分かっているなら売りに来ますよ。当たり前じゃないですか。」


 至極当然のことだ。品物が足りていないならば、絶好の商機というものである。それを無視して、余っているところに売りに行くなどアホなことはしない。


 おおよそ銀貨一枚から一枚半で塩を売り裁き、籠の半分ほど、約五十キロほどの岩塩が二時間で売れることとなった。

 塩の販売は町中に凄い勢いで伝わっているようで、加工食品屋や食事処など、わらわらと集まってきたのだ。


 というか、約二時間で客足はぱたりと止まった。需要人数はそれでほぼすべてのようである。


「誰も来なくなっちゃったよ?」

「買う人には一通り売れたのでしょう。時間も中途半端だし、ちょっと他の店をのぞいてみましょうか。」


 ドセイの町は人口が約二千ほど。アライの四分の一程度の規模だ。必然的に屋台広場もさほど広くないし、店の数はパッと見て分かるほどに少ない。辺境とはいっても、アライはボッシュハ領の領都なのだ。


 ただし少ないとは言っても、数十の屋台が軒を連ねていて、その殆どは食料品店だ。パンやジャムなどの炭水化物系、ベーコン、ハムなどのたんぱく質系、そして果物や野菜、シチューやスープを売っている店もある。


「おや。」


 裕はふと竹細工屋の前で足を止める。

 竹細工と言っても、串焼き用の串がメインの感じで、長いのから短いのまで各種取り揃えており、その横にザルや籠などが並んでいる。

 その中で裕が目を付けたのは櫛だった。


「これ、ひとつ幾らですか?」

「銅貨百四十枚だよ。」


 飾り気のない櫛を指して聞いてみると、店主はぶっきらぼうに返してくる。なんとも愛想のないものである。商売する気があるのだろうか。


 とりあえず、裕はそんなことは気にせずに櫛を購入すると、エレアーネに手渡す。


「その鬱陶しい頭を少しはどうにかなさい。」


 デリカシーが無いにも程があるだろう。もうちょっと言い方を考えたりはしないのだろうか……

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