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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
5章

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⑧遭遇



 ……ガンガンガン……とやかましい音を立てながら急拵きゅうごしらえの昇降機が引き上げられていく。


 「……ガラルトさん、どうします」

 「どうするか……ま、相手次第だな」


 昇降機から少し離れた場所に積まれた角材を遮蔽物にしつつ、ミレとガラルトが言葉を交わす。軍の偵察部隊が壊滅した曰く付きの場所に行き、戻って来れる程の者ならば例の【ニンジャ・ソルジャー】並みの猛者かもしれない。或いは人海戦術で呆れる程の大人数で果敢に挑み、命からがら逃げ帰って来る可能性も無くは無い。もし昇降機のゴンドラにギッチギチに詰まった男達が、苦悶の表情を浮かべながら揚がって来たら……等と夢想したミレは頭を振ってその可能性を否定する。


 「……何やってんだ、クソガキ」

 「うん、ちょっと変な事を考えちゃっただけ」


 モデロとミレがそう言葉を交わした直後、ガガンという音と共に巻き上げ機が停止する。


 「……着きましたね」

 「ああ、後は……言葉が通じりゃ上出来だな」


 未知の相手と意思疎通が出来るようミレが祈る中、赤い回転灯の目障りな光と共に昇降機のシャッターが開く。そして、向こう側から……



 「……う、撃たないで……」


 予想外に弱々しく相手がゆっくり両手を挙げながら出てきたので、ミレ達は拍子抜けしてしまった。




 昇降機から出てきたのは、西側所属(装備から大体判る)の同業者かと思われる女だった。但し武器の類いは持っておらず、一見すると余りに軽装だったからどう考えても場違いに思える。


 「……あんた、ジャーナリストか」

 「ええ……そうです!!」


 女は銃を構えたまま質問するガラルトに怯えたが、彼の視線が胸元に提げた身分証に注がれている事に気付き、慌てて掲げながら叫ぶ。


 「……えっと、エマ・ジェンシーといいます……レベンダリーポスト社の臨時特派員で戦場取材を……」

 「身分は判った、だがここは戦場じゃねぇ。そんな場所にどうして特派員のあんたが居る」


 エマと名乗った女は銃を下げたガラルトに向かって手を挙げたまま、視線をあちこちに向けながら答える。


 「……その、特派員先の民間警備会社が特務派遣を請け負いました、その追跡取材で……」

 「……ボス、こいつ怪し過ぎる。どうして俺達と同業者でもねぇ連中と絡んで、戦場と無関係なここに居やがるってんだ……腑に落ちねぇ」


 眉間に皺を寄せながら呟くモデロの銃口が自分に向けられ、エマはひっと声を上げる。


 「エマとか言ったな、取り敢えず下で何が有ったか洗いざらい話して貰うぜ」

 「はい……はい!? わ、判りました……」


 エマは成り行きが銃殺から多少緩和された事に気付いたものの、モデロの不審げな視線に溜め息を漏らしながら手を下げた。



 「……大体判った、だが……にわかには信じられねぇ話だな」

 「でも、本当なんです……その、ここが……そんな場所だったなんて誰も知らなかったし、それに……あんな危険な所だったなんて……」


 用心の為、離れた場所に座らせたまま尋問されたエマがそう答えるものの、話の信憑性を疑うガラルトはそう繰り返した。


 エマの話では、【大穴】があるこの場所に東側の部隊が派遣されている情報を得た軍部から、彼女が取材していた民間警備会社(それが何処かは取材の守秘義務を盾にエマは口を割らなかった)が偵察任務を行う事になりエマも同行した。だが、昇降機を降りて暫く進む部隊は真っ直ぐな地下通路を進む中に少しづつ異常をきたし始めたらしい。


 「……十人程居た人達が、一人づつ居なくなるんです」

 「一本道だったんだろ、逃げようもない場所じゃねぇか」

 「はい、そうなんですが……ライトで照らしながら進んでいくうち、いつの間にか最後尾の人が居なくなって、その人を探そうと戻って行くとまた一人抜けていって……」


 不安げな表情でそう話すエマを観察しながら、ミレ達は彼女が嘘を言っている様子は無い気がしてくる。だが、問題はそれなりに武装した警備会社の人間がそう簡単に遭難する筈もない上に、どうしてエマだけが戻ってこれたのかが判らない。


 「……あんた、何か他の連中と違った事でもしてたのか」

 「……違う事、ですか?」


 ガラルトが不意にそう尋ねると、エマは癖なのか考えながら上を向いて暫く頭を揺らしていたが、


 「……違う事と言ったら、そうですね……不眠症になりかけていたので向精神薬を飲んでいた位ですが……」


 思い付いた事に自信が持てないらしく、エマはそう言って俯いてしまう。


 「……向精神薬、か。強い幻覚にも処方される事もあるが、まさかそんなもんが効いて免れたって訳かい」

 「……えっ?」

 「詳しくは判らねぇが、もし【大穴】の下に何か原因があって、そいつが元で人間の頭をおかしくするってんなら、薬で抑えられても有り得無くはねぇ」


 エマの証言にガラルトは半信半疑ながら答えを出し、しかし問題は自分達が何をしに来たかだと理解しながら更に尋ねる。


 「……ところでよ、あんたが下で何をしてたかは知らん。だが、これだけは聞いときたいが……何か見つけたりしなかったか」

 「何か、ですか……そうですね、古い木箱や何かが入っていそうな壺が少しだけ有りました。ただ、他の人達は罠の可能性があるからと言って一切触れなかったんですが……」


 そう言いながら胸ポケットに手を入れようとしたので、モデロが銃口を向けてエマが凍り付く。


 「いい、構わねぇ」

 「……オーケー、ボス……」


 ガラルトにそう言われ、モデロが銃口を下げるとエマはほっとしたように再びポケットに手を入れ、中から何かを掴み出した。


 「……そこに落ちてたんです、これが」


 そう言いながらエマが取り出したのは、いびつに曲がり明らかに稚拙な鋳造技術で造られた小さな貨幣。だが、陽の光を反射させて光るそれは誰が見ても直ぐ判る金貨だった。




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