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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
5章

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⑦探索



 「……うーん、また遠征かぁ。よっこらしょっと……」


 ミレはそう呟きながらブーツのヒモを結び、傍らに置いてある大きなリュックを背負う。ずしっと重みが掛かり思わず呻きそうになるが、他の三人は涼しい顔で歩き出すので何も言わない事にした。


 「ねえ、ガラルトさん! こんなに荷物あったら漁れなくない?」

 「心配すんな、安全が確保出来りゃそこに置いてく。そこを足掛かりにして漁りゃ済むこった」


 登山用の重装備に匹敵する大きなリュックサックには、食料品や寝袋といった野営品と銃弾等が詰め込まれていた。最終的に中身を戦利品と入れ替えて帰還すれば良いし、律儀に両方持ち帰る必要は無い。


 【大穴】に挑む事にしたミレ達は調査報告書を元に計画を練り、数日を費やして偵察部隊が持ち帰れなかった宝飾品を漁るつもりである。但し、それらが本当にあるのか保証は無かったが。


 「【大穴】が在る場所は戦線から大きく離れてるが、まだ実効支配地域になっていないそうだ。要するに敵側のスカベンジャーも来ているかもしれん」

 「やっぱり早い者勝ちになった!」

 「ま、確かにな」


 今回も流石に徒歩は諦めてトクナレの車両をチャーターする事になり、彼女の事務所で一般車両から四輪駆動車に乗り換える。そして車で丸一日移動したその先からは、採掘場まで歩いて行く事になった。



 「じゃ、ミレ気をつけてね!」

 「おい、俺達は心配しねぇのか」

 「あんたらは殺しても死ななそうでしょ?」

 「酷えぇな……」


 走り去るトクナレの四輪駆動車を見送り、四人は採掘場を目指す。立地条件から見れば警備部隊との衝突は有り得ないだろうが、現場の状況は判らない。もし、他のスカベンジャーが居たら平穏な話し合いで事足りるとは思えなかった。


 「ところでボス、偵察部隊を殺した奴はどんなだったんだろう」

 「……ま、軽装歩兵を倒せる連中だからな。俺達と似たような装備だったかもしれねぇ」


 歩きながら話すガラルトとモデロの後ろに付き従い、ミレは【大穴】について考える。報告書の内容では未発見の遺跡のような場所らしいが、考古学的な資料として保全するような所を漁っても良いのだろうか。と、考えてみるが今さら倫理観を持ち出して論じてどうだと言うのか。そもそもスカベンジャーの仕事は盗みに等しく、他人の物を無許可で持ち出している時点でアウトだろう。


 (……偵察部隊の人達はどう思ってたんだろ?)


 軍人は職務として【大穴】を探索し、大半がそこで命を落とした。ミレ達とは違い大義名分の元、私利私欲と無縁なまま潜った筈である。そのお陰でミレ達は正確な地図を手に入れ、不安無く探索出来るのだ。



 「……こいつぁ、確かに大穴だな……」


 到着したガラルトはついそう呟くが、それも無理は無い。採掘場の露天掘りの真ん中に、落盤でも起きたような巨大な穴がぽっかりと口を開いていた。露天掘りのすり鉢状になった側面には巨大な搬出車が行き来する道があるが、穴の大きさが巨大過ぎて見る者の遠近感が大幅に狂わされてしまう。


 「一番下までは昇降機があるとさ、穴掘りしなくて良かったな」

 「……いや、でもこれ……いきなり底が抜けて落ちたんですか……」

 「判らんが、採掘場の技師は言うには朝になったら穴が開いてたらしい」

 「うわっ、怖いなぁ……」



 【大穴】の昇降機に辿り着くまで、ひたすら下に向かって歩くしかない道程である。モデロが背丈より大きなタイヤの付いた搬出車を指差して乗れないもんかとぼやくが、ガラルトに時速五キロ程度しか出ないと聞いて黙り込んだ。


 「おい、ドローンが飛んでるぞ」


 黙々と歩き続けていたガラルトが不意に声を上げると、耳鳴りのように小さな飛翔音が遠い空を渡っていく。ミレは言われなければそれがドローンだと気付いていない程の小ささだったが、飛んでいる高度と大きさから察すると軍事用ではなさそうだ。


 「……スカベンジャーがドローンを使いますか?」

 「あんまり聞かねぇな。ボンゴ、判るか」

 「……こ、後尾翼が真っ直ぐだから……み、民間仕様の……あ、アキレスかな……」

 「アキレスか、それなら爆装はしてねぇな」


 ガラルトはボンゴとそう言い交し、いきなり爆撃してはこなかろうとそれ以上注意を払わなかった。


 「モデロ、モデロ……」

 「んぁ? 何だクソガキ」

 「ドローンだよ、何か対策しないの?」

 「……あのなぁ、ありゃ偵察に使われてる民間機なんだよ。見つけた段階でこっちの事は知られてるが、騒いだ所で向こうから仕掛けてこなきゃ問題無え」

 「いきなり爆発したりしないの?」

 「……民間用ってのは、荷物運ぶ規格だともっとデカくてあれよりやかましいんだよ。爆弾積める奴はチビのお前よりデカいから一発で判るぜ」


 モデロの説明を聞いている間にドローンは遠ざかり、やがて飛翔音も聞こえなくなる。もしあれが第三者の操作する偵察ドローンだったとしても、彼の言う通りなら武装した連中がやって来ても自分達と同じ道筋を通らなければ近付けない。なら、今は心配する事は無いだろうとミレも思う事にした。



 「……不味いな、昇降機が降りてやがる」


 やっと採掘場の底に着きミレが荷物を降ろそうとしたその時、ガラルトが呟く。


 「それって、つまり……」

 「ああ、先行者が居るってこった」


 ミレの問いにそう答えながらガラルトは荷物を物陰に置き、大きなアサルトライフルを抱えて安全装置を外す。彼にならい各自戦闘態勢を整え始めると昇降機のモーターが唸りを上げ、ゆっくりとワイヤーが巻き上げられていく。


 「……よし、先ずは話し合いだな」


 ガラルトはそう言いながらアサルトライフルの弾倉を装填し、言葉とは裏腹にコッキングレバーを引いて銃弾を装填した。





 

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