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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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⑩帰還



 寄せ来る亡者達を撃退したガラルト達は、手を貸してくれた過去の兵士に別れを告げる。だが、魔女の舞いが終わるとそれまで静かだったストーンサークルの周辺が再び騒がしくなる。


 「……おいおい、もう打ち止めだったんじゃないか」

 「あら、そんな事言ったっけ?」


 てっきり終わったものだと思い込んでガラルトは点けかけたタバコを箱の中に戻し、魔女を問い質す。すると彼女は、ストーンサークルに来る前の快活さを取り戻しながら素知らぬ振りをする。


 「奉じる舞いを守るまでが頼まれた仕事だ、ここから先は残業扱いだぜ?」

 「あらまぁ、随分と情け薄い言い方じゃない?」

 「おうよ、世の中何でも情だけじゃ動かねぇもんさ」


 ガラルトはそう言うと背負っていたリュックを降ろし、予備弾倉と折り畳み式の防火斧を取り出す。


 「ボスッ!! もう弾が無いぜ!!」

 「また来たの!? どうするんですか!」


 モデロが足元に転がっていた旧式のリボルバーで応射しながら叫ぶと、ミレは愛用のハンドガンに弾倉を叩き込みながらガラルトに問う。


 「お前らは先に行け、俺は後から追い掛ける」

 「でも、それじゃガラルトさんは……」

 「……ミレ、お前に心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ。さっさと行けって」


 ガラルトはそう言いながら片手で大口径のアサルトライフルを構え、一発一発刻むように放ちながら防火斧を左右に振る。その動作がさっさと行けと促しているのに気付いたモデロは、


 「……ボンゴ、クソガキを守れ。俺が道を切り開くからよっ!!」


 リボルバーを撃ち尽くしながら叫び、拾い上げた盾を抱えながら亡者の中に飛び込んでいく。一瞬その中に埋もれたように見えたモデロだったが、直ぐ盾で居並ぶ亡者を押し返しその中に通り抜けられる裂け目を作る。


 「モデロさんっ!!」

 「今だ、行くよ」

 「……っ!?」


 ボンゴが不意に明瞭な言葉を発し、ミレは我が耳を疑うがその隙を突くように抱え上げられ、そのまま担がれてストーンサークルの中から連れ出されて行った。




 「……良かったの? ホントは寂しがりやなのに」

 「うるせぇ、誰が寂しがりやだってんだ」


 魔女の軽口にガラルトは苦々しく顔をしかめさせながら最後の銃弾を放ち、防火斧を肩に載せてタバコを咥える。すると魔女の指先から鬼火のような炎が上がり、ほわりと宙を舞って彼のタバコに火を点けた。


 「……で、この騒ぎはそろそろ終わるんかい」

 「ええ! もう下火も下火よ?」

 「なら良い、流石に同郷の連中を砕いて回るのは堪えるんだよ……」


 ガラルトはそう呟いて煙を吐き、寄せ来る亡者の一人に防火斧を叩きつける。ぐしゃっ、と頭蓋骨が砕ける手応えと音が握る柄に伝わり、彼は疲れたようにタバコを落とすと靴裏で捻り消した。




 「……ガラルトさん、無事でしょうか」

 「ボスなら心配ねぇよ。こんなのは日常だからな……」


 ミレの呟きにモデロは平然と言い返し、けれど掲げていた盾を投げ捨てて足先で乱暴に蹴り飛ばす。


 「……でもよ、俺達が居ると足手まといになるみてぇな態度されちまうと……少し、嫌だけどな」


 ミレはガラルトの実力を測りかねてそう言ったが、モデロやボンゴは理解した上で彼の言葉に従ったのだろう。だから、ミレはそれ以上ガラルトの事を心配するのは止めようと心に決める。


 「……あ、あれ……れ、例の転移門じゃない……」

 「そうだな、ここまで来りゃ後は帰るだけだが……」


 ボンゴがそう言うと不意に視界の先に緑色の光が浮かび上がり、あの怪しげな門が現れる。ミレはここで待つべきか、それとも門の先に行って待つべきか暫し逡巡する。


 「この門、私達だけで抜けたら消えたりしないかな」

 「あっ、そうか……いちいち人数を数えてくれりゃいいが、抜けたらボワンと無くなっちまったらボスが帰れねぇな」

 「待とうよ、ガラルトさんが戻るの……」


 「……そんな心配は要らねぇよ」


 ミレは背後からそう言われて振り向くと、ついさっきまで誰も居なかった石畳の道にタバコの煙を吐きながら立つガラルトが居た。


 「ガラルトさんっ!!」

 「止めてくれって、俺は幽霊でも何でも無ぇ」


 ミレは彼の元に駆け寄ると、バシバシと足を掌で叩いたり手に持ったタバコが本物かしげしげと眺めてから頷く。


 「……そうですね、どうやら本物みたいです」

 「お前さん、何を基準に俺を認めてんだ?」


 どうしてそうなる、とガラルトは困惑するが気にしてどうなる訳でも無い。彼はそう諦めて三人に撤退するぞと命じるが、ミレはガラルトと一緒に戻ると思っていた魔女が居ない事に気付く。


 「あの、魔女さんは?」

 「ああ、あいつか。気にするな」

 「いや、置いていくのは……」

 「おいおい、魔女だぞ? ここらはあいつの縄張りみたいなもんだ。放っておいて構わねぇ」


 ガラルトはまるで気にせず、さっさと帰るぞと欠伸をしながら転移門に向かって歩き出した。




 「……ん、あれ……?」


 ミレは屋根裏の寝袋の中で目覚め、腕に巻いたままの時計で時刻を確認する。時間はまだ五時で起きるにはまだ早いが、他の三人は起きているのだろうか。耳を済ませても動く気配は感じず、まだ寝ているのかもと寝袋の中に潜り込む。


 (……そう言えば、何でこんな所に寝てるんだろう……)


 まだ寝覚めで朦朧とする頭の中では、魔女が出た筈の前線基地まで来たが何も得られず空振りに終わり、そもそも魔女なんて何処にも居なかったとガラルトが報告するつもりだと昨夜は言っていた。だから、起きたらさっさと撤退する筈だ。


 そう思い返し、何となくポケットの中に手を入れたミレは指先に違和感を感じて動きを止める。そしてポケットからその異物を取り出してミニライトの弱い光で照らしてみると、それは銀地に赤い七宝細工で十字架の飾りを付けた勲章だった。


 「……何これ、いつ拾ったんだろ……?」


 ミレは不審に思いながら裏返してみると、そこには小さく【ルベロ・アルカンターラ】と細く刻印されていた。


 「ルベロ・アルカンターラ……なんだろ、ひとの名前かなぁ……」


 ミレは妙な眠気と気怠さを感じながら目を閉じ、二度寝の緩やかで怠惰な誘いに乗って再び眠りについた。





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