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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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⑨鎮魂



 「……おい、帰ったぜ」


 ガラルトが古い兵士達を引き連れながら魔女の元に戻ると、彼女は貫頭衣の中から新たな香を取り出すと祭壇の炉に焚べた。


 「あら、ご無事で何より……と、それにしても大所帯になったんじゃない?」

 「ああ、話の判る先輩諸氏で助かった。でなきゃ新旧銃撃ち比べになる所だったぜ」

 「……そういえば、他の子達は?」

 「ん? ああ、あいつらか……死んでなきゃ生きてるだろ」


 随分な物言いをするガラルトだったが、魔女はそれを咎めず祭壇に向き直り、小刀で指先を切って香炉に血を一滴垂らす。


 「……そうね、戦いに身を捧げればいずれ死が訪れるわ。あなたみたいな例外を除いて」


 そう言ってガラルトを見つめ、小さく息を吐いて姿勢を正した。


 「あっ、ガラルトさん!」

 「おー、ボスも無事だったみてぇ……って、何だよハロウィンのコスプレ集会か?」

 「……そ、そうだね……そ、それも軍人関係ばっかだけど……」


 無事に亡者の襲来を跳ね除けたミレ達が集まると、彼等に付いていた兵士達も集合し結構な人数になる。その状況はまるで、旧軍装マニアの集会か何かにしか見えなかったが。


 「……なあ、この連中はどうなるんだ」

 「そうね、まだ理性が残っている彼等は……輪廻の循環に乗り遅れていただけなのかもしれないわ」

 「つまり、どうなる?」

 「……魔女の私には答えられないの。巫女でも僧侶でも無い者に、魂を還す術は無いもの……」


 そう呟くと魔女は中断していた舞いを再開し、ストーンサークル内を銀飾りの音で満たしていく。


 ……しゃん、しゃん


 「……俺の田舎にも、春の祭りになると流しの踊り子が来たが……似ているもんだな、あの舞い方……」


 戦時中、多くの戦車を撃破した戦車兵は魔女の舞いを見てそう言いながら思い返し、望郷の念と共にそっと瞼を閉じながら消えていく。


 ……しゃららららっ、しゃん


 「くそっ、何だか寂しくなってくるじゃねぇか。まあ、仕方ないか……」


 勇猛果敢に塹壕を飛び越し、縦横無尽に戦場を駆け回った俊足自慢の突撃兵は、巨石に寄りかかりながら鼻の奥がツンと痛くなるのを堪らえ、天を仰いで満月を眺めながら消えていった。


 ……しゃん、しゃしゃしゃしゃん


 「ふう、少し疲れたな……でも、これでようやくゆっくりと、眠れそうだ……」


 不眠不休でライフルを握り、その腕前から死神と敵味方から恐れられた狙撃手は魔女が舞う度に響く音に耳を傾け、故郷の冬と暖かい暖炉の事を思いつつ、座り込んで消えてしまう。



 「……おじさん、透けてきてる……」

 「ああ、そうだな。でも、悪い気はしない……」


 ミレと共に戻った兵士はそう言いながら手を自分の襟元に寄せ、何かを外すと彼女の手を掴みそっと握らせる。


 「……これ、バッチ?」

 「はは、バッチか……違うよ、お嬢さん。これは……良く頑張ったら貰えるものさ」


 ミレが手の平を開くと鈍い銀色と鮮やかな赤色が印象的なそれをバッチと勘違いするが、兵士はやんわりと否定しながらそう説明する。


 「えっ、そんなの受け取れないよ!?」

 「……良いさ、どうせ俺が持っていても意味の無い物だ。それに……戦争はもう終わってるんだ」

 「でも、私は……」


 ミレは自分が紛争の最中に戦場荒らしをしている事を説明し、如何にそんな物を譲られる立ち場で無いか伝えようとした。だが、兵士は頑として勲章を受け取らない。


 「……じゃあ、暫く預かりますが……その代わり、渡したい人が見つかったらその時に譲りますよ?」

 「ああ、それで結構……ところで、君の名前を聞いてなかったな」

 「……ミレ、です……」

 「ミレか……確か千年続くって意味だったか……成る程、とても良い名前だ」

 「……えっ?」


 兵士は彼女の名前を尋ねると、そう言いながらガラルトから貰った最後のタバコをケースから取り出し、火を点けようとするが透けた手からライターとタバコがぽろりと零れ落ちてしまう。


 「……おじさんっ!?」

 「……やれやれ、自分じゃもう火も点けられんのか。情け無いな……」

 「これに、火を点ければいいの?」


 ミレがライターとタバコを拾い、見様見真似で苦戦しながら火を点けて彼の口元に押し付ける。たかがそれだけの作業だったが、ミレは何となく顔も覚えていない父親と接しているような気分になる。無論、それは彼女の勝手な妄想に過ぎなかったが、


 「……ああ、ありがとう。自分にはまだ、娘は……いや、息子か娘か判らないが、身籠った妻は居てね。彼女が無事なら……きっと、きっと……」


 兵士はそう呟きながら、ぷかりと煙を吐き出し、満足げに微笑む。


 「……ミレさん、君には奇妙な縁を感じるんだ。何だか、孫か何かに思えてね……おかしな事かもしれんが、まあ……不思議とそんな感じが……」

 「……っ!?」


 だが、その言葉を最後に兵士は、唐突に姿を掻き消してしまう。


 「……おじさん、ありがとう……」


 彼に直接伝えられなかったミレは、ぐしっと手の甲で溢れかけた涙を拭いながら呟いた。



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