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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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⑧ただ撃つだけじゃ能が無い



 「……ふうん、あんたらも色々あって大変だったみてぇだな」


 じぽっ、とマッチを擦りながら点けた火をガラルトが回し、タバコを咥えた亡者達が顔を寄せながら貰い火で煙を吸い込む。


 「……くぅああぁ、久方振りのタバコか……こんなに旨いと思わなかったぜ」

 「ジタンじゃないな、こいつ」

 「いいじゃねぇか、柿の葉干して巻いた紛い物よか、マシだぜ兄弟」


 年代も国籍もバラバラな亡者達は口々にそう言いながらタバコを回し、深々と吸い込んでは煙を吐き出しつつ互いを見回す。


 「良く見りゃ、あんた騎兵か何かか?」

 「ああ、良く分かったな」

 「いや、爺さんの昔話そっくりだったもんで……気を悪くしたら済まねぇ」

 「いいさ、戦友」


 時代も国家もまちまちな亡者達だが、ガラルトの餞別(タバコ)に寄って来た彼等は他の亡者とは大いに異なるようで理性的だった。戦死した理由はともかく、彼等の多くは自分が死んだ事に気付かず今の場所に縛られていたのかもしれない。


 「さて、細かい事はともかくよ。ちょいと厄介事を頼まれちゃくれないか……」


 「……タバコの駄賃としてか?」

 「安いもんだな、だが……悪くない」


 彼等はガラルトの提案に笑いながら応じ、其々の担当を振り分けて散っていく。



 「……ボス! 弾が尽きたっ!!」


 悲痛な叫びと共にモデロが最後の銃弾を放ち、空薬莢を跳ねさせる。そして腰に提げた山刀(マチェット)を抜いて亡者に斬りかかろうとしたが、


 「……坊主、弾をばら撒き過ぎなんだよ」


 そう言いながら一人の兵士がライフルを構え、亡者の頭を正確に撃ち抜いていく。


 「ひゅうっ! ボルトアクションのクセにやりやがるな!!」

 「生意気言うな、お前さんがタネだった頃より先に戦争しているんだ。こんなのは訳無い」


 ガシャンとレバーを素早く引いて再度構え、スコープ無しのアイアンサイトを覗きながら彼は次々と標的を捉え、そして相手を霧散させる。



 「やっ、このぉ……数が多いぃーっ!!」


 ミレはサブマシンガンの弾倉を交換しながら一斉射から三点射に切り替え、弾薬を節約しようと心掛けるが既に弾倉は残り二本を切っている。そして、雲霞の如く押し寄せる亡者達相手には圧倒的に足りなかった。


 「……ほぉ、若い娘さんが頑張ってるじゃないか」

 「ガラルトさんっ! ……って、あれ?」

 「悪いな、俺はガラルトって名前じゃなくてアルカンターラだ」

 「……えっ、その名前……」

 「……ふむ、今はそれより掃討が先だな」


 だが、不意に現れた男はそう言いながら銃を構える。その構造はミレの物より遥かに古臭く、そして木製のストックで重そうだったが、それを軽々と振り回し駆け寄る亡者を手前から次々と撃ち抜く。


 「い、一発も撃ち漏らし無し!?」

 「……そりゃそうだ、撃ち漏らしたら自分も仲間も……いや、何でもないさ」


 そう言いながら空になった弾倉を素早く交換すると男は再び構え直し、セミオートライフルの重厚な発射音を響かせながら立ったまま連射する。そうして目に入る亡者を全て撃ち倒すと、ミレに問い返した。


 「それにしても、俺の名前がどうしたかな」

 「あの、その……知り合いに、似た名前の人がいて……」

 「……そうか、だったら……君の言語から想像すると、俺の国は消えはしなかったようだ。だったら、戦争に出た意味もあったのかもな」


 ミレは自分の知っているアルカンターラという名前と、彼の出自に何か関連が有るのかと考えてみるが答えは出ない。自分が詐称しているアルカンターラ家は近代まで名家だったらしいが、今は没落し血筋も絶える寸前でミレが入り込む余地があった程だ。


 「……あの、ありがとうございます」

 「いいんだ、君を見ていると娘の事を思い出す……だから、気にしなくて良い」


 ミレの言葉に男はそう返し、まだ残りの亡者も居るだろうと言ってストーンサークルの外側に歩き出した。



 「……モ、モデロ……そ、その人は……?」

 「相変わらずハチャメチャな奴だな、お前はよ……」


 ボンゴと合流したモデロは、彼の周囲に散らばる剣や盾の山を眺めながら呆れたように話し掛ける。亡者達は霧散しても身に着けていた装具は残されるようだが、ボンゴの周りにはそれらの品々が辺り構わず転がり、彼はその中から大きな戦斧を二本両手に持って暴れ回っていたらしい。


 「お前一人でどうにかなったんじゃねぇか?」

 「……や、嫌だよ……つ、疲れるから……」


 どうやら興奮状態から既に抜けていたらしく、ボンゴは戦斧を投げ捨てるとそう言いながらくたりと座り込んだ。


 「でよ、この騒ぎはいつになったら終わるんだ?」

 「……わ、判らないけど……も、もう出涸らしなんじゃないかな……」


 ボンゴに言われてモデロも周囲を見ると、新たに現れる亡者は皆無で、時折散発的に銃声が聞こえるだけである。


 「……どーやら、お祭り騒ぎは落ち着いたみてぇだな」

 「……じ、じゃあボスと合流しよう……」

 「そうだな、そうするか……で、おっさんはどうする?」


 ボンゴに同意しながらモデロが振り向くと、ライフルを降ろしながら老兵は、


 「……もう終わったのか……なら、あんたらに着いて行こう。何故かそうした方が良い気がするしな」


 そう答えると揉み消したタバコの先にオイルライターで火を点け、煙を燻らせながら一歩踏み出した。





 

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