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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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⑦殺到



 魔女曰く、今居る場所は現世と幽世を隔てる【狭間(はざま)】と俗称されている空間らしい。だが彼女に言わせれば、そこは屋外の演舞場のような所だそうだ。


 「だって、踊り手が居て演奏家と観客が居るでしょう?」

 「俺達は演奏家なのかよ……」


 辿り着いた円環巨石群(ストーンサークル)の中で魔女がそう言うと、ガラルトは苦い顔をしながらアサルトライフルを構え直す。そして魔女は彼の後ろで手足に付けた銀細工の飾りをしゃんと鳴らしながらサークルの中央に立ち、瞑想するように目を閉じる。


 「……じゃあ、始めるわ。舞いが終わるまで亡者達をサークルの中に入れないで……」

 「入られたらどうなる?」

 「……実力行使で排除していいわ」

 「はいはい、判りましたってんだ」


 ガラルトは魔女とそう言葉を交わしながら配置に付き、ミレも彼を倣って担いで来たサブマシンガンの弾倉をチェックし、コッキングレバーを引いて初弾を装填する。


 「お前ら、交戦規定は簡単だ。誰も入れるな」

 「了解、ボス」

 「……か、隠れていても良い……?」

 「うう、緊張するぅ……」


 ミレ達はそれぞれの配置に展開し、武器を構えて合図を待つ。ストーンサークル自体はそれ程広大な空間ではなかったが、周囲から押し寄せてくる亡者の数は判らない。もし弾薬が尽きる数で殺到してくるなら、ミレ達に勝ち目は無いだろう。そして、始まりは唐突だった。


 「……来たぜ」


 ガラルトの声を皮切りに、亡者の第一波が押し寄せてくる。それは集蛾灯に飛び付く羽虫のように情動的だった。


 「ああああぁ……っ!!」

 「……おっ、おおぉ……」


 生者の魂に引き寄せられたからか、序盤の亡者達は口々に言葉にならない声を発し、手に持った石の武器は遥か古代を思わせる原始的な物。そして身に着けた衣服は、獣の毛皮を粗く鞣し帯で纏めた簡素な物が目立つ。だからだろうか、ミレ達の構える銃を見ても全く怯える素振りは見られない。


 「こら! あっち行けっ!!」


 まるで犬や猫を追い払うように声を上げながらミレが引き金を引くと、パラタタタタタッと歯切れの良い発砲音がストーンサークルに木霊する。そして亡者達は生前の姿を模して現れたからか、銃弾を浴びると煙のように霧散していった。


 「……妙なもんだな、悪霊祓いに聖水じゃなくて銃弾が有効だなんてよ」


 ガラルトはそう言いながらライフルを構え、刻むように一発一発トリガーを引き、近寄る亡者を確実に仕留めていく。


 「……ここは混ざり合う場所だから、亡者も撃たれれば消えるけど下手に触れられれば魂を喰われかねないわ。油断してたら仲間入りよ?」

 「おー、そりゃおっかねぇ……」


 魔女の発言にガラルトは肩をすくめ、近接射撃用の光点照準器(ドットサイト)を覗く。ポンと赤く灯る光点で狙う相手の部位を定め、引き金を絞る。ミレのサブマシンガンとは比べ物にならない大口径の弾丸、いや機関砲弾に等しいそれは、当たった亡者の身体をあっさり貫通すると横回転しながら更に道連れを増やしていく。


 「ボーリングならストライクだな、だろう?」

 「……何言ってんのよ、スペアでしょう」


 自分の仕事振りに惚れぼれしながらガラルトが話し掛けると、舞いを止めないまま魔女は額に汗を光らせながら律儀に返答する。そうしながら二人のリズムは綺麗に絡み合い、魔女がステップを細かく刻めばガラルトが相槌を打つようにドンッ、ドンッと引き金を合わせていく。


 「……なあ、こいつら成仏していってんのか」

 「さあ、判らないわ……」


 丁寧に狙い一発一発を無駄無く撃ちながらガラルトが尋ねると、魔女はそう答えて首を振る。


 「……私はただ、月齢と暦を読んで師匠から受け継いだ舞いを奉納してるんだもの。亡者が何かを伝えたくても声は届かないし……それに、そもそも私は魔女だし、僧侶や巫女じゃないもん……」


 魔女は見た目にそぐわぬ童女のような口調でそう答え俯いたまま舞いに集中しているように見えたが、ガラルトは違うだろうなと思う。


 「……へっ、悠久の時を独りで過ごせしルサリカ姉ちゃんにしちゃあ、随分と弱気じゃねぇか」

 「……うるさい、馬鹿バカルト!!」


 まるで本当の姉弟のような会話を交しながら、二人は絶え間無く演舞と破壊を撚り合わせていく。そしてその奇妙なセッションが何合も何合も繰り返されたその時……



 「が、ガラルトさん!! 何だか様子が違ってきてます!!」


 それまで冷静に狙いを定めながら撃っていたミレが変化に気付き、身を預けていたストーンサークルの石柱からひょいと身体を向こう側に出すと、


 「……くそっ、何だこいつら!?」

 「おい、イワンのくせに俺の狙った相手を奪うな!!」

 「うるせぇ、黙れクラウツ!!」

 「……ここは、キエフじゃないのか?」


 一部の亡者達は生前の記憶を取り戻したのか、口々にそう呟きながらナイフを手に戦おうとしたが自分達の姿に気付いて凍り付いたように手を止める。


 「……あー、そうか……もう俺達は死んでるって訳か?」

 「くそっ、それじゃ最後に感じた爆風で俺はやっぱり……」

 「……そりゃそうだよな、戦車ごと燃えちまったんだし……」


 どうやら古代の亡者とは違い、近代に近付けば近付くほど彼等の記憶は鮮明になっていくようである。と、そんな彼等に気付いたガラルトはニヤリと笑いながら手を止めて、


 「なあ、あんたら!! ここは戦士の館じゃねぇし俺はワルキューレじゃねぇが、ちょっと手伝って貰えりゃ有難いんだがな!! ……勿論、タダとは言わねぇが」


 ヒゲだらけの顔を向けて大声で叫び、彼等の前まで行くとタバコとマッチを差し出した。




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