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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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⑤魔女の理由



 「ん〜、お茶にはやっぱりスグリのジャムじゃない? あるんでしょ、ガラルト〜!」

 「へいへい、糧食パック漁ってみらぁ……おっ、有ったぞ」


 魔女の懇願にガラルトは二つ返事で答え、ガサゴソと回収した糧食パックを引っ掻き回す。そしてジャムの密閉パックを取り出すと魔女はニンマリと笑い、再び指を鳴らして藁人形を操る。


 「……うわぁ、お伽話みたい!」


 ガラルトがあれ程手間取っていたバーナーも魔女が指を鳴らすだけで青白い炎が踊り、上に載せたヤカンがあっと言う間にしゅんしゅんと白い湯気を立てる。そしてミレの目の前で藁人形がキビキビと動きながらヤカンに茶葉の入ったティーパックを入れると、やがて四つ用意されたアルミカップにスグリジャム入りの紅茶が淹れられていく。


 「まぁ、私が煎ったお茶には劣るけど悪くは無いわね」

 「……うん! 魔女さん美味しいです!」

 「うぅ〜ん、魔女さんって呼び方は変ねぇ……」


 紅茶の入ったカップに口をつけ、熱い紅茶を飲んだミレがそう言うと魔女は微妙な表情でそう言った。



 「……で、わざわざ出向いて来て何の用だい」

 「もう、せっかちはダメよ?」

 「はぁ、そうかい」


 カップの中身を半分程飲んだガラルトがそう尋ねると、魔女は余り気乗りしない様子で答える。それは尋ねた方のガラルトも同じである。


 「でもよ、何で西側のガキ共にちょっかい出したんだ。お前さんらしくもねぇ」

 「えー? だって礼儀がなってないですもん! たまたま森の中で鉢合わせしちゃった時にね、いきなりヤラせろって言うのよ? ほんと失礼しちゃうっ! 中身も純真無垢な魔女なのに信じられない!!」

 「……中身知ったら死んでも言わねぇよ」


 森での顛末を一息に魔女が話し終え、紅茶を一口啜るとガラルトが呆れながらそう付け加える。二人のやり取りを余所にモデロとボンゴは藁人形が差し出すクラッカーを貰い、モデロがミレに視線を向けるとトコトコ人形が近付き、彼女にも一つ差し出す。二枚重なったクラッカーには練乳ジャムが挟んであり、ミレはいつ塗ったのかと不思議に思いながら受け取る。


 「あ、ありがとう」


 差し出した手の平に人形がクラッカーを載せてくれたので、ミレが礼を言うと人形はプィと聞き慣れない音で返事しながら魔女の元に帰っていく。


 (……藁人形って喋れたっけ?)


 いやそれ以前にどこから音出てるのと考えるべきなのに、ミレは何処かピントのずれた事を考える。しかし、クラッカーを一口齧りながら練乳ジャムのふんわりした香りと優しい甘さにうっとりとし、そんな些細な事は気にならなくなる。だが、ふと気付き視線を移すと隣に居るモデロとボンゴも閉じかけた瞼を震わせたり、眠たげに欠伸したりと何となく様子がおかしい。


 「……どうして? ……ふわあぁ……」


 そして自分も意識を保つのが難しくなる程眠たくなり、ふわふわとした心地で自分もうとうとし始めたその時、


 (……で、この娘に自分の事は打ち明けたの?)

 (……ほっとけ、どうせ近いうちに判るこった)

 (まぁまぁ、お優しい事!)


 ガラルトと魔女の会話が遠くに聞こえ始め、何の事だろうと考えようとしたが長くは続かなかった。不意に意識がぷつんと途切れ、ミレは眠りの深い闇の中に落ちていった。



 「おい起きろ、ミレ」

 「……ふにゃ?」


 ガラルトの声で目を覚ましたミレは、板敷きの床の上で寝ている事に気付いて身体を起こす。だが、寝床と違う固い床に直寝していた割りに身体が軽く、いや寝る前より不思議と身体に活力が満ちている気がする。


 「ううぅ〜ん、何だか爽快な気分……って、あれ? まだ夜!?」

 「何寝ぼけるんだよ、クソガキ」

 「えっ? ……あれ?」


 何時間も寝ていた気分だったミレは、窓ガラスの向こうがまだ深い闇に包まれている事に驚く。慌てて袖を捲って腕時計を見ると、まだ深夜一時過ぎで明け方までまだ遠い時刻である。


 「……う〜ん、すごく寝た気がするのになぁ。不思議だなぁ……」

 「不思議がるのは構わねぇが、仕事だ」

 「仕事? こんな夜中に……?」

 「ああ、魔女に押しつけられた仕事を片付けに行くぞ」


 ミレ以外の三人は何事も無かったように身支度をテキパキと進めていて、まだ寝起きでついさっき目にした出来事が詳しく思い出せないミレは悶々としていたが、


 「魔女に押しつけられた仕事ですか、ふむぅ……」


 自分だけ遅くなって迷惑は掛けられないと急いで支度を始め、モデロ達に遅れまじとヘッドライトを点けて外に出ようとしたが、


 「おいクソガキ、月明かりが凄えから要らねぇよ」


 モデロにそう言われて小屋から外に一歩踏み出すと、表は木陰と梢が見て判るほど煌々と月明かりが照らし、確かにライトは要らないやと思い消してガラルトの背中を追い掛けた。



 「これから何処に行くんですか?」

 「……魔女によ、西側の連中にちょっかい出さない条件に頼み事をされたのさ」


 月明かりの中を進みながらミレがガラルトに尋ねると、彼は行き先を言わず経緯だけを話す。


 「……頼み事、ですか」

 「ああ、魔女の頼み事ってのはな。生きた人間なんぞ屁とも思わない連中が言うだけあって、面倒で厄介な事が多い」

 「で、何処に行くとかは……」

 「……知らねぇ」


 「……えっ!?」


 全てを把握していると思っていたガラルトが予想外の返答をし、ミレはつい立ち止まってしまった。




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