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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
4章

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②廃墟の夜



 その一軒家は近付いてみると外壁もボロボロで窓のガラスは全て割れ、中に入るまでも無く明らかに廃墟だった。唯一無事な屋根だけはしっかりしていそうだが、それもいつまで保つのか判らない。但し、それは偽装された外見で実際は頑丈な構造らしく、ミレ達が中に入ると床板以外はがらんと何も無いがドアも軋み無くしっかり閉じられる。


 「ふむ、立派な廃墟じゃねえか。ここなら魔女が出ようが心配なさそうだ」

 「ボス、本気で言ってるの?」

 「……本気な訳ねぇだろ、そもそも魔女ってのが信じられんだけだ」


 そう言いながら壁に突き出た帽子掛けのフックを捻ると、カコンと何かが外れる音が壁越しに伝わる。


 「……ぼ、ボス……ち、地下室の出入り口が出たよ……」

 「だろうな、室内に作ったら手榴弾一つで吹き飛びかねん」


 割れた窓から外に居るボンゴの声が届くと、ガラルトは当然だと言いたげに顎を擦り、外に出て地下室の入り口を暫く眺めていたが、


 「……この狭さじゃあ、魔女抜きでもノイローゼになりそうだぜ」


 自分の肩幅ギリギリの階段に向かって溜め息を吐き、お前らちょっと見てこいと告げてからタバコを取り出して火を点けた。




 「ガラルトさんじゃなくても、狭い所が嫌いな人ならイヤになるかも……」

 「おめぇは平気なのか?」

 「うーん、そんなに気にならないかな」


 モデロを先頭にミレ、そしてボンゴと続きながら三人は急な階段を慎重に一歩づつ降りる。ミレの前で結構な段数を降りたモデロが、ドアが有るぞと言いながらそれを開けると小さな照明が地下室に灯り、夜目の利かないミレもその明かりのお陰で地下室に続く階段が素掘りの土壁を樹脂で塗り固め、足元も格子状のギザギザした滑り止め付きプレートで補強された頑丈な造りだと判る。それらはいかにも軍隊向けで武骨だが、快適性と真逆で長く居住する施設では無いのが一目瞭然である。


 「意外とカビ臭くもねぇし、換気孔も付いてるのか……」

 「前線基地みたいな所だったんだよね」

 「知らねぇけど、ドローン兵器の誘導施設か何かだったんだろ」


 モデロとミレがそう話すうちに、ボンゴは部屋の隅々を眺めたり手で触れた後、


 「……こ、ここに……な、何か隠した跡があるよ」


 そう言いながら短いナイフの先で擦ると、カリッと乾いた音を立てながら隅の壁がこちら側に四角く外れて倒れる。ミレの膝丈にも届かない高さだが、綺麗にくり抜かれた土壁に木の板を当てて蓋をしていたのか周りと色は変わらない。そして、その中にあったのは……


 「……に、人形だ」


 白い布に藁を詰めて縫い、頭と身体を作って上から服に見立てて織り布を巻いた簡素な人形だった。子ども向けの玩具にしては古臭く、そんな代物を誰が隠したのだろうか。


 「うっす気味悪ぃ人形だ、燃やしちまおうぜ?」

 「……隠す位なら、きっと大事な物かもしれないんじゃない」

 「……も、燃やしたら……の、呪われるかも」

 「び、ビビってんじゃねぇ!!」


 ミレとボンゴに反対されてモデロはたじたじになり、結局ミレが預かる事になる。


 「それに、何だか可愛く見えない?」

 「藁人形が可愛く見えたらよ、クソガキのお前は絶世の美少女じゃねぇか」

 「じゃ、そう思っていいよ!」

 「クソガキの分際で生意気言うんじゃねぇ!!」


 人形を抱えるミレにモデロが噛み付くが、間に挟まる人形の目が虹彩まで精密に再現された義眼造りのガラス玉のお陰かジッと見つめられている気がして、どうにも居心地が悪い。



 「……魔女騒ぎといい、そいつといい全く気が狂ってるみてぇだな」


 野太い声にミレが振り向くと、地下室の狭い通路をやっと抜ける決心が着いたガラルトがドアの向こうからヌッと顔を出し、肩に担いでいた黒いプルバップライフルを降ろして壁に立て掛ける。


 「お前らも楽にしろよ、どうせ魔女なんざぁ夜にならんと出てきやしない」

 「……えっ?」

 「いや、気にすんな……って、ふむぅ……そういやミレ……お前、何処で寝るつもりだ?」

 「「……あっ!」」


 ここにきて一番の肝心事に気付いたガラルトに、ミレとモデロが同時に声を上げたが、既に自分の居場所を決めて荷物の中から寝袋とグラウンドシートを広げたボンゴは、


 「……こ、ここで俺達と雑魚寝か……う、上の小屋の屋根裏に……の、登るかだね」


 そう言って真剣な表情でミレの顔を見上げると、ガラルトに向かって首を傾げる。


 「おいミレ、お前は幽霊とか苦手か」

 「にっ、苦手も何も気にしませんけど……まさか私一人だけ風穴だらけの屋根裏ですか!?」



 ここに来て人生最大のピンチ(?)に陥ったミレ、そして彼女は最も難しい選択を迫られる。チーム分解の危機か、それとも全てを丸く収めるアイディアをミレは果たして閃くのか。




 『……あー、寒かったら下に来てもいいからな』

 「……あー、ありがとうございますぅ〜」

 『おいメスガキ、発熱カイロ使う時は袋から出して揉めよ? 袋から出さねぇとあったまんねぇぞ?』

 「……お気遣い、痛み入りますぅ〜」


 ガラルトとモデロが交互に短距離無線で呼び掛ける度に、ミレは半ば不貞腐れた口調で律儀に返答する。因みにボンゴが柱を器用に登って輪の結び目を作ったロープを天井まで繋ぎ、屋根板を外して簡易シェルターとして使えるようにしてくれた。つまり、ミレは三人の為に身を捧げたのだ。




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