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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
3章

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⑨交渉



 真っ直ぐ抜けた銃弾による傷はモデロにとって皮膚に刺さったトゲより早く痛みも消えるが、真皮の間際までズブリと針が突き刺されば痛みはその度に感じるようだった。


 「痛えぇってんだよクソガキっ!!」

 「痛いならじっとしててください!!」


 自慢の治癒能力でも塞ぎ切れない斜めの銃創に縫い針を当て、止血の為に応急縫合をするミレにモデロが怒鳴り散らす。それでもミレがちくちくと小まめに針を動かして縫合を進めると、モデロも諦めて静かになった。


 「……クソガキの割りに、上手く縫うもんだな……」

 「はいはい、クソガキじゃないけど上手に縫いましたよ!」

 「がああああぁっ!! てめぇぶっ殺すぞっ!!」


 結び目を作り小さなハサミで縫い糸を切るミレに、モデロがぽつりと呟くとミレはそう言い返しながらわざと傷口の上から平手打ちしてやった。


 「……ま、互いに言いたい事は有るだろうが、こっちも無傷じゃねぇしあんたらも殺し合いは避けたいだろ」

 「……ああ、それは判っている。目的の回収物が重複していないなら、これ以上の戦闘は望まん」


 ガラルトの言葉に敵の一人がそう返答し、自分達の身分を明かさず仲間の治療を許可する条件付きで一時休戦の提案を受け入れた。


 「それで、あんたらの狙いは何だ」

 「……クライアントの要望は、残された研究資料の回収だ。勿論、それが何かは言えん」

 「上等だ。同じ相手から依頼されて来た訳じゃねぇし、俺達は金目になる物が手に入れば他に興味は無えぜ」


 ガラルトがそう言いながらタバコに火を点けると、問題無いと相手も答えながら同じように取り出して火を点けた。


 「……それにしても、特注のプレートで無ければ貫通していたな。あんな代物で狙われたら命が幾つ有っても足らん……」


 治療が必要か判断する為に撃たれた仲間のボディアーマーを脱がしていた一人が、彼に向かって貫通しかけたアーマープレートを投げて寄越し、それを眺めながら彼はタバコの灰を落としつつ呟く。


 「世の中は広いって事さ、こいつも今の所は通用してるが……そのうち対抗出来るボディアーマーも出てくる」

 「それまでに引退しておきたいものだな、お互いに……」


 ガラルトとそう言い交しながら男はタバコの火を消し、俺達は退散するが精々気をつけてくれと言い残して居なくなった。


 「ねぇ、ガラルトさん。あのヒトと何か話してたの?」

 「……世間話さ、只のな。それよりボンゴ、モデロの代わりに斥候しろ。さっさと漁って帰らんとタクシーに乗り遅れるぞ」


 ミレの問いにガラルトはそう答え、この周辺と違う区画を探すぞと指示しながらその場を後にした。




 「……ぼ、ボス……ち、調剤室っぽいね、ここは」

 「ああ、そいつは悪くねぇ。薬なら単価も高いだろう」


 そう言いながらボンゴの前の扉を開け、ガラルトが中に入る。そこには撤収時に使われていたらしき段ボールの束がそこここに積まれ、その慌ただしさを物語っていた。だが、流石に全ての薬剤を搬出し切れた訳ではないようで、棚の片隅には使い捨て注入器入りの薬剤や錠剤が幾つも転がっていた。


 「お前ら、鎮痛剤とか興奮剤位は判るよな」

 「うん、鎮痛剤は錠剤と注射の二種類あるんでしょ」

 「……クソガキ、お前って危ないクスリでもやってやがったか?」

 「違うよ! 前に組んでたヒトに教わったんだもん」


 そんな風に話しながら、ミレ達はまるでキノコ狩りでもするように様々な薬品を漁りながら、有用な物と高そうな物(これは適当だったが)を片っ端から袋に詰め、リュックの中に収めていく。


 「……ぼ、ボス……ぞ、造血剤って聞いた事あるよ」

 「ああ、そいつぁ回収だな。モデロに刺しときゃ治りも早くなるぞ」

 「いいよ、俺は要らねぇ!」

 「お前、注射は嫌いだもんな」

 「べ、別に嫌いじゃねぇよっ!!」


 ボンゴが見つけた注射器を調べながらガラルトはリュックに詰め、それにしてもと言いながら立ち上がる。


 「さっきの連中といい、この試薬やら何やらといい……このラボは随分と用意周到な施設じゃねぇか」

 「えっ? 用意周到……ですか」

 「ああ、妙な場所だと思わんか。紛争前に出来た施設なのに、治療薬より戦場で使える薬ばかり揃ってやがる……まるで、紛争が起こるのを知ってて作ったみてぇな場所じゃねえか」

 「そう言われれば……私達みたいなスカベンジャーに馴染み深い薬ばっかりでしたね」


 ミレの言葉にガラルトは頷き、どうせ俺達にゃ判らん都合で出来たロクでもない場所なんだろうと吐き捨ててから、


 「……さて、そろそろ退散するぞ。さっきの奴等も余計な滞在はしたがらん素振りだったからな、何が来るか知れたもんじゃねぇ」


 そう言ってリュックを背負うと、荒っぽく調剤室のスイングドアを蹴り開けながら廊下に出た。




 「……時間通りだな。まぁ、遅刻したら置いてかれるんだから当たり前か……ん?」


 再び装甲車に乗り込んだ四人を出迎えた男は、モデロの身体から血の臭いを嗅ぎ取ったのか怪訝そうに視線を向けるが、


 「……おい、くたばるなら外でやってくれ。こいつには死体袋は積んでない」


 と冷たく言い放ち、装甲車のアクセルを踏んで発車させた。




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