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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
3章

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⑦秘された工場



 ニセロから呼び出されたミレが彼女のオフィスに着くと、既にガラルト達は到着していた。既に何度も仕事を共にしている彼等だが、私生活は詳しく知らない。元東側同盟に所属していたガラルトがどんな暮らしをしているのか、少しは興味もあるがまだ踏み込めない間柄である。




 「……製薬会社の開発拠点?」

 「そうだ、最近存在が明らかになった施設でな。GPS経由のルート検索でも、地図アプリ界隈にも公表されていなかった場所だ」


 ニセロの説明にミレ達は暫し考え込み、どれだけ価値が有る物が残されているか想像する。紛争前ならネット上の固いガードと民間警備会社(銃を常時所持する物騒な連中だが)に守られ、決して表に出ない施設だったのだろう。だが、今は社会的な常識の通用しない環境と化している。


 「そんな場所をよ、誰が見つけたってんだ?」

 「警備会社の帳簿の一部が流出して、それがネットに出回ったんだ。こうなると時間との勝負だ、早い者勝ちだぞ」


 ニセロの言葉に一同は顔を見合わせ、情報料は幾らか尋ねる。


 「……二千」

 「た、高いなぁ……そんなに儲かりそうなの?」

 「紛争勃発後、親会社は資料と市販予定の試作薬は回収出来たらしいがそれ以外は残されているらしい。お前ら、一般的なガン治療薬が幾らするのか知ってるか」

 「……皆目見当も付かんが……」

 「安くても一錠で二十五は下らん。リュック一杯に詰め込めれば暫く遊んで暮らせるぞ」

 「よし、お前ら行くぞ」

 「ガラルトさん!?」


 即決しニセロに電子決済で支払いをするガラルトに、ミレは血相を変える。


 「電子部品や銃弾と違って、薬関係は消費期限が早いんだよ。まごまごしてると稼ぎ時を逃すぞ」

 「うう、判りましたよ……」


 そうけしかけるガラルトにミレは渋々従う。当然だが彼等に薬剤知識は無いが、それでも急いだ方が良さそうな仕事だった。下手に遅くなれば先に漁られて取り分が減るどころか、他のスカベンジャーと鉢合わせになり衝突沙汰も有り得るだろう。




 「へぇ〜、兵員輸送車ったぁ随分と贅沢だな!!」


 重々しい装輪の地響きに気付きモデロが声を上げる中、道路の向こう側から鉄板に覆われた低い車高の車が近付いて来る。ニセロが指定した集合場所で待っていたミレ達を出迎えたのは、菱形の側面構造が特徴的な装甲車だった。無論、只のタクシーな筈も無く黒光りする機関砲が上面後部に据えられた戦場輸送車である。


 「……あんたらが客か? 俺達は軍隊から偵察任務を請け負っている民間警備会社だ……まぁ、そこら辺は察しろ。さあ、さっさと乗ってくれ」


 装甲車のハッチを開けて対応してきた男にそう言われて腕章を見ると、目立つ黄色の帯には【戦闘任務許可組織】とはっきり記されている。


 「……ねー、ガラルトさん」

 「……なんだ」

 「この車、民間警備会社……のだよね」

 「それがどうした」

 「……こんな車でスカベンジャーを送迎して大丈夫なのかなぁ」


 開放されたハッチを潜り、向かい合わせの席に座りながらミレがガラルトに尋ねると、


 「ああ、問題無くはない。民間警備会社が請け負ってるのは、偵察任務で民間人の輸送じゃない」

 「じゃあ、見つかったらヤバくない?」

 「……ミレ、お前なら大金積んで頼んだ輸送業務に、わざわざ同乗してまで付き合うか」

 「……?」

 「兵隊ってのはな、人数が足りてりゃ偵察でも橋掛けでも自分達でやる。だが、人数が足りてないから民間警備会社に頼んでるんだ」


 ガラルトはそう言って担いでいた自動小銃の弾倉を外し、弾丸を眺めてから元に戻す。


 「……つまり、民間警備会社の下っ端が偵察中に無許可でタクシーをやっても、バレなきゃ誰も知らん振りだ」

 「あー、そういう訳かぁ……」

 「だから、向こうに着いたら約束の時間には絶対に戻るぞ。偵察コースの周回中にやってる副業なら、こっちが遅れても待ちゃしないからな」

 「うわっ、遅れたら置いてけぼりなの!?」

 「しかも前金支払い済みでな……」


 これから向かう元製薬会社の開発拠点がその周回コースの途中にあり、一般人は侵入禁止区域に指定されている。だからこそ民間警備会社の装甲車でないと近付く事すら出来ず、呑気に歩いているだけでも撃たれて文句の言えない環境だった。


 「……そりゃ、最近まで誰も知らなかった訳だね……」

 「大方、情報の出元は今乗ってる装甲車の警備会社かもしれんな」


 ガラルトの指摘にミレは何だかなぁ、と呟く。紛争前に警備していた製薬会社が撤退した後、警備会社はその情報に値段を付けて流し、それに食い付いた連中から金を取って送迎している。その世知辛さにミレは堪らなくなるが、そうは言ってもこれも互いの飯の種なのだから仕方ない。




 ……ドロロロロッ、と低く唸る音と共に装甲車はミレ達を降ろして走り去り、四人で縦列隊形を維持しながら未舗装の道に沿って暫く進む。すると、唐突にアスファルトの舗装路が現れその先にヘリコプターの着陸場を備えた広大な工場の敷地が見えてくる。


 「……すげぇな、地上から繋がる舗装路が無いって事は、建造するのに空輸して施設を作っちまったって訳かよ?」

 「余程、外部に漏らしたくない事でもしてたんだろ……ま、今はとにかく宝探しだ」


 大量の資材をヘリコプターで運ぶ大金の掛け方にモデロは呆れながら頭を掻くが、ガラルトは自動小銃の安全装置を外しながら敷地内に踏み込んでいく。


 「ううん、何があるのかな?」

 「……さ、さぁね……び、媚薬とかあったりして……」


 その後をミレとボンゴも遅れないように続き、やがて四人は開発拠点の通用口に辿り着いた。


 「……どうだ?」

 「……よ、良くないね……せ、先行者が居るかも……」


 施錠されているかと用心しながらボンゴがドアを調べると、彼はそう呟きながら首を振る。


 施錠を解かれていた片開きの扉がぎぃ、と軽く軋みながら開き、薄暗い廊下に外の光が射し込む。だが、悪い事にその廊下に積もる埃には複数のブーツの跡が点々と刻まれていた。




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