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少女ミレは今日も戦場で拾い物をします  作者: 稲村某(@inamurabow)
2章

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⑩武器見本市



 「……あ、ありがとうございます……」


 腹が空いたミレにニセロは何処でも無料だと前置きし、武器見本市の周囲に駐車された移動販売車に案内する。複数停められた様々な販売車を眺めながら、ミレは一台の車の前で立ち止まりメニューの一つを指差す。すると店員は聞き慣れぬ言語で返答し少し待たされた後、発泡パック入りの何かを手渡し飲み物を指差してどれにするか尋ねてくる。


 「あ、これかな……」


 読めない言語で表記されたドリンクからオレンジ色のメニューを指差すと、店員は氷入りのストローの刺さったカップを手渡して微笑みながら手を振った。


 「凄いですね、これが無料なんて……」

 「それだけ見本市で利益が見込めるって事だ。しかもこの見本市は毎日行われているぞ」

 「ま、毎日!?」


 凄いなぁ、と感心しながらミレはベンチに腰掛けてパックを開け、中からパン生地に似た何かに包まれたレタスとミートソース塗れの肉に齧り付く。パン生地は適度に焦げた風味が香ばしくふわりとした口当たり、そしてレタスと肉感増々なバンズは若干スパイシーで食べ慣れない味ながらミレは二口目から止まらなくなる。


 「……んふっ! んはぃっ!!」

 「食いながら喋るな……判らんだろ」

 「……んん、凄く美味しいっ!」


 ミレの食いっぷりを眺めながらニセロはタバコに火を点け、傍らの【喫煙所はあちら】のポスターに向かって煙を吹き掛ける。


 「……ふん、副流煙が身体に悪いなら武器はどうなんだって……あれは確実に人殺しの道具だろ」

 「……ニセロさんは食べないんですか?」

 「私か、心配要らん。カロリー制限中だからコレで十分だ」


 半ばまで食べながらミレが尋ねると、ニセロはそう言いながらピルケースを掲げ、ミネラルウォーターで数錠流し込む。たったそれだけで足りるのかとミレが聞くと、ホテルに帰って酒を飲むから気にするなと不健康な答えが返って来る。


 「ニセロさんは、武器が嫌いなんですか」

 「はっ、何を言うかと思ったら……」


 食事を終えかけたミレが何となく尋ねると、ニセロはつまらなそうに呟くが意外にもすんなり言葉を繋ぐ。


 「……嫌いに決まってるだろ。武器のお陰で私の住む町は廃墟と化したし、仕事も失った。こう見えて元は会社を経営してたが……今はお前達のような情報社会に取り残された犬共の見張り役さ」


 何やら複雑な事情が絡んでるのかと前のめり気味になって聞くミレの反応に、ニセロは急に気恥ずかしくなったのか、


 「……武器は嫌いだ。だが、武器を振り回すお前等まで嫌いな訳じゃない……もう満足したろう、戻るぞ」


 そう言いながらタバコを踏み消し、立ち上がりながらふと気になったのか、ミレの持つドリンクを指差す。


 「……で、そいつは何味なんだ」

 「えっ、飲んでみます?」

 「いや、そうじゃないが……」


 すっと突き出されたストロー付きドリンクにニセロは一瞬身を引き、ちょっとだけならと一口啜る。


 「……ホワイトチョコフレーバーのオレンジヨーグルト味かよ……くそ、変な物飲ませるな」


 苦々しい顔でニセロが吐き捨てると、ミレは同意するようにニヤッと笑った。



 会場に戻った二人は、それから会場内の様々な展示品を眺め動画を撮影し、時には熱心な展示担当者に捕まりパンフを渡され難解な専門用語を翻訳して貰いながら……と、それなりに仕事をこなす。


 「おーっ、これが例の空飛ぶリュック……ですかねぇ?」

 「うむ、そうらしいな。ミレ、体験飛行してみろ。上手くいったらタダで貰えるかもしれん」

 「どー考えても必要無いよ!」


 大量のファンを駆動させて滞空出来るリュックを眺め、ニセロがそう言うと周りで見ていた観衆から『身体が小さいから楽に飛べそうだな』と言いたげな視線がミレに注がれるが、傍らのインストラクターが冷静に規定身長が有りますから、とぴしゃりと告げる。


 「残念だったな、飛べなくて」

 「飛べなくても全然大丈夫です!」


 そう言い交わす二人は見本市会場を人波に身を任せながら進む内、外壁が開放された区画に辿り着く。そしてそこは様々な銃器の実射体験が出来る試射場になっていた。


 「うむ、ミレの本領発揮だな」

 「えーっ? 別に私じゃなくても……」

 「お前は牧羊犬で、私は羊飼いだ。言ってる事は判るな?」

 「はいはい、判りましたよ……」


 そう言いながら、しかしスーツ姿のまま試射場の担当インストラクターに説明を乞うと翻訳端末をミレに手渡し、過去にマデュラと互いに使用していたインカム方式で説明出来ると伝えてくれる。


 「……では、ご希望の弾種と銃器は御座いますか」

 「うーん、それじゃ……9ミリオートのこれで」


 ミレは幾つも並ぶ銃器からハンドガンと弾丸を指差し、インカムの上から聴力保護用のヘッドセットを装着する。その格好は端から見ると企業説明会にやって来た若い学生が潜り込んでいるようで、周りの人々から何故か好奇の眼で眺められる。だが、離れた場所に設置された標的ターゲットを睨みながら銃を構えるミレは、そんな周囲の視線は全く気にしない。


 ……ジャキッ、タタタタタタタタタタッ、ジャコッ、キンッ……


 だが、構えたミレが一瞬後ハンドガンから弾倉全弾をターゲットに撃ち尽くし、スライドした排莢口から空薬莢が地面に転がる金属音が鳴り響くと……観衆は突然の出来事に唖然とする。だが、その驚嘆はレールに乗って近付いてくるターゲットの中心に集まった弾痕に視線が注がれ、その見事な射撃に溜め息を漏らすまで続いた。


 「……うん、軽くて狙い易いけど……私にはちょっと重いかなぁ」


 そう言いながらミレは続いてSMGを希望し、再び軽く膝を落としながら半身で銃を構え、


 「久々だから緊張するぅ〜!」


 と周りが思わず頬を緩めそうな一言を吐きながら、


 ……ジャコッ、パパパパパパパパパパパパパパンッ!!


 フルオート射撃を見事に制御しつつ再び一弾倉撃ち切り、コッキングレバーを引いて銃身内に弾丸が無いのを確かめてからインストラクターに手渡すと、野次馬から少しづつどよめきが広がっていく。


 「ふんふん……たまには重いアサルトライフルも撃ってみようかなぁ」


 最後にミレが選んだのは、50口径の最大弾種が撃てる重アサルトライフルのプルバップタイプ。類似品は多々有るが流石にミレも狙撃銃でしか撃った事は無く、無理を押してフルオートで射撃しても制御出来ないだろう。


 「……ぜーったいに、セミオートじゃなきゃ無理だと思うっ!」


 ズシリと腕に掛かる重さに思わず叫ぶミレだが、それでも基本の構えに移ればピタリと姿勢は定まる。そして引き金を絞ると小柄なミレの上体は一発毎に衝撃で揺れ動き、ゴーグルを装着した顔面も排莢の際に立ち籠める爆煙で霞む程だが……


 ……ドンッ、ドンッ、ドンッドンッドンッドンッ……カキィンッ!!


 速射は無理ながら、二発目まで探るように一発一発刻み、そこからブレた銃口を焦らず同じ高さに合わせる射撃制御に徹しながら四連射。そして撃ち終えた最後の薬莢が重々しくも甲高い反響音を奏でると……


 「うおおぉー!! 凄いなお嬢さん!!」

 「なあ、何処の民間軍事会社所属なんだい?」

 「うちでインストラクターに!」

 「いや、デモンストレーターならどうだい!?」


 ショートカットの小柄な娘(というより少女)が凛々しく様々な銃を構え颯爽とターゲットを撃ち抜く姿に、周囲から熱狂的な賛辞と歓声が巻き起こる。勿論ミレはそんな注目の的になった経験は無く、ただアワアワと何を言うべきか迷いに迷うだけだったが、


 「えー、我が社の専属契約社員なんで引き抜きはご勘弁で……ミレ、行くぞ」


 当然ながらニセロが割って入り引き止める手を振り払いながら、ミレを連れてその場から立ち去った。




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