ルリの陰謀
この世界ではアヤメはクリステルルートに入ってます、頑張れルリ
桜花国には、若干十四歳にしてずば抜けた戦闘力を持つ少女がいた。
ふわふわした白髪を肩まで伸ばし、ぱっちりとした緋色の双眸をあえて気だるげに半眼とし、小さな体で愛嬌を振りまく少女。名をルリと言う。彼女は狙った獲物は逃さない。
「っふっふっふ。黒百合の根と白桃の種をブレンドすれば、無味無臭の媚薬ができあがる。これをお茶に混ぜて」
歯を覗かせて笑うルリ。
怪しげな液体をティーポットに数滴たらす。
「これを飲んだ人は、最初に見た人を永遠に愛し続けるというベタベタな刻印を植え付けられてしまうんだよね。というわけでこの媚薬をお茶に混ぜてアヤメちゃんに飲ませます――ごろにゃ~んなアヤメちゃんとか絶対可愛いからね、くふふぅ。最後にあたしの血を入れて完成~」
持っていた短刀で人差し指の腹をすっと斬った時、
「何をしているんだ?」
背後から聞こえた声にビクッとする。
「そのあからさまな動揺はなんだ? 血が出ているが、指をどうした?」
振り返るとアヤメが立っていた。
今一番見られたくない人物だ。半眼だったルリの目が大きくなる。
「うえ、やば」
「やば? やばいと言ったか?」
訝し気な視線は心を見透かすようだった。
「なな、なんでもないって」
「嘘をつけ、後ろに何を隠した」
「隠してないし」
「そこをどけ」
ずんずんと迫ったアヤメに慌てる。
ここでバレては全てが水泡に帰す。
クリステルに惚れるアヤメの心を掴むため、毎夜布団の中で息を殺し、ムニョムニョと考えた結果、薬物による強淫という人類の面汚したる計画を思いついた。
アヤメとクリステル、二人の間に結ばれる赤い糸を斬り裂き、無理やり自分のものと結びつける。やらずに後悔するよりもやって後悔した方がいい、そう考えたルリは止まらなかった、止まることができなかった。この時のために砥いだ決意は獣の牙の如し、薬草の入手にも大枚をはたいた。ここで終わってなるものか。
「やーめーてー! こーなーいーでー!」
「どけ」
「きゃーアヤメちゃんひどい!」
道を歩けばみんなが振り返るようなスタイルなのに。あの細くて白い腕のどこに力があるのか、襟首を掴まれてポーンと枕みたいに飛ばされた。
「うわぁ! やだー! アヤメちゃん最後はいつも力押しー!」
「これはお茶か?」
くぴっと飲んだアヤメが「ぶっふぉ! なんだこの味は!」と発狂した。
「っち、無味無臭のはずなのに。なんという恐るべき味覚」
と、思っている場合ではない。ここは早く逃げないと。
「なかなか斬新な味だ、凄いじゃないかルリ」
「あは、そう?」
あれ、気づかれてない?
「などと言うと思ったか」
ギロリと目が光る。
「だよねえ・・・・・・ちょっ、やめてよ! 刀抜くの!」
「覚悟はできているんだろうなルリ」ぴょこん
「解放するのやめてよ! 頭から耳生えるのかわいいけど」
「これは感情を擦り込む類の薬だろう。最後にお前の血を入れて完成といったところか」
「うへぇ、バレてる」
「何に使うつもりだった? またクリステル様を襲うつもりだったのか」
「いや、あなたですが」
「問答無用、ここで斬る」
「いやあー! 殺されるー!」
ルリが涙目で悲鳴を上げていると、扉からクリステルがひょっこりと顔を出した。
「なんの騒ぎですか?」
「あ! クリステルさん助けて! アヤメちゃんが乱心を! あたし殺されちゃうよお!」
「貴様、見苦しいぞ。恥ずかしくないのか」
何事かと困惑していたクリステルだが、ルリの方を見るとすごい勢いで走り出した。
「ルリさん!」
「お? おおおお?」
「あぁ、指に怪我をしてしまったのですね。血が出ています」
「いや、これは――」
「薬箱を取ってきます、ちょっと待っていてくださいね」
そう言ってクリステルは部屋を出て行った。
アヤメ「・・・・・・」←刀の降ろし所を失っている
ルリ「・・・・・・」←良心を締め付けられている
「・・・・・・アヤメちゃん」
「ん?」
「クリステルさんて天使なの?」
「そうだな、天使だ」
真顔で言うアヤメだった。
「なんかもういいわ、二人とも末永くお幸せに」
「泣くな、このバカもの」
ルリは流れ落ちる涙を拭いもせず、白く燃え尽きた。




