表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合っと皇女の猫  作者: WAKA
12/36

アヤルリ 5

 夜の庭園でぼーっと池を見ていた。

 月の光がスポットライトみたいに池に降り注いで、光る水面を水鳥がすいすい泳いでいた。

 水鳥はあたしを見て不思議そうに首を傾げる、それを真似て同じように首を傾げると、興味を無くしたのか水鳥は向きを変えていってしまった。

 

 そんななんでもないことが、ひどく孤独な気持ちにさせる。

 待って

 追いかけようとして、水際に来たところでハッとなって足を止めた。


「あたし、なにしてんだろ・・・・・・」


 お姉さんのいる部屋には帰る気がしなかった。

 だってお姉さんは――


 項垂れて視線を落とすと、月明りに光る水面にあたしが映っていた。

 髪は雪で真っ白に覆われた平原のような色、そこに突然差し込んだ陽のように朱い瞳。別にどこもいじってない、生まれながらにこういう色を宿してた。それがあたし。


 こういう色を持つ人間は特殊みたいで、子供の頃はよくからかわれてた。


 うわー、変な色

 気持ちわるー


 とか、散々なことも言われた。とってもとっても傷ついた。

 でも、少しずつ大人になった今は――なんていうか、寄ってくる理由が変わった。


 ルリちゃんかわいいねー

 君が好きなんだけど、付き合ってくれない?


 はぁ? って感じ。どれもこれも空っぽの言葉ばっかり。あたしのことよく知りもしないくせに。だからそういう人達には酷い言葉を返してあげた。この見た目であたしが傷ついた分だけ、その人達も苦しめばいいと思ったから。


 最初はざまあみろって思ってた。人に受け入れられず、苦しんでいた頃のあたしに言ってやりたい気分だった。ほら見て、意味わかんないけどモテモテなんだよ? だからさ、そんなに悲しそうに泣くことないんだよ。実はあたしってべっぴんさんだから。


 いい気分だった。人を傷つけていい気になるなんて、なんだか悪役っぽいけどね。

 本当のあたしってこんなだったかな。

 酷いことばっかり言うんじゃなくて、ちゃんと思いやる気持ちも持った子じゃなかったかな。

 天邪鬼なあたしでも素直になれる人っているのかな。


 そんな新しい悩みができてしまった。


 空っぽな感情じゃなくて、真っすぐにあたしを見てくれる人を求めてた。そうすれば、あたしも優しくできる。そう信じたかった。


 お姉さんと出会ったのは、そんな時だった。

 女同士だから当たり前かもしれないけど、お姉さんはギラついた目であたしを見ない。それでも、いつもそっと見守ってくれる人だった。

 今日はどんなことがあったとか、好きな花の色はなにかとか。たまに話す内容は当たり障りのないものだったけど、不思議と嫌な感じがしなかった。ピリピリしないまま話せる人って、これまでいなかったから。あたしも妙な感覚に癒された。


 それなのに、話したこともない人の告白を受けて浮かれちゃってさ。つまんないよ。

 お姉さんはこれまで会った人とは違うと思ってたのに。


 嫌な感じ。


 だいたいお姉さんの隣にいたのは、あたしだったのに。


「ルリ!」


 急に名前を呼ばれてびっくりした。でも、その声の主が誰だかわかってしまったから。

 あたしは振り返れなかった。



 よかった、ここにいてくれた。

 心底安心した途端、重苦しい不安が体から離れて安堵の笑みが漏れた。


「探したんだぞ」

「・・・・・・」

「ルリ?」

「・・・・・・」


 呼んでも振り返らない。

 ルリを見つけられて浮かれていたのだと思う。私は無意識のまま彼女の手を取っていた。


「ルリ、帰るぞ」


 走り寄って彼女の手を取ると――



 ぎゅっとお姉さんがあたしの手を取った。

 お姉さんの手は思っていたより小さくて、温かくて――そう思った瞬間、体の芯からゾッとして腕を振り払った。

 嫌だ。

 だってお姉さんは違う。



「ルリ」


 私の手を振り払ったルリはその場から飛びのいて、初めて出会った頃よりも警戒の色を濃くしている。


「ルリ、どこか悪いならお医者様の所へ行こう。それか――」

「違う、違うよ」


 そう言ったルリは目を瞬いて、しばらくの間黙り込んだ。


「来ないでよ、ほっといて」


 注意しなければ聞き取れないくらいの声で、ルリは言った。未だ警戒しているルリだが、私の目には震えて見えた。


「どうしたんだ」

「あたし、お姉さんがわからない・・・・・・」

「わからない?」

「お姉さんに告白したって人。お姉さんは何とも思ってないんでしょ? それならどうして、どうして付き合ったりするの? そういうの、わからない」


 私に想いを告げた人の顔が浮かび、胸が締め付けられる。


「ああ」


 ルリはその人のことをどう思っているのかと聞いた。その時私は、人を思う気持ちは大切だと彼女に言った。しかし、私は――


「断ってしまったよ」

「え? だって、今日一緒に歩いてた」

「なんだ、見ていたのか?」

「偶然だけどさ」

「私が呼び出したんだ、そして受けた告白の返事をした。まだ、私にそういう感情はわからないと。このまま付き合っていても、きっとあの人を傷つけてしまうと思ったから」

「へ、へー」

「ルリには偉そうなことを言っておきながら、そういう有様だ」


 私は肩を竦めながら話した。

 ルリの助けになりたいと思いながら、どうにも失態続きだ。きっと呆れているだろう。


「あたしがここにいるって、どうしてわかったの?」


 ルリが言った。


「どうしてと言われても――勘だが」

「そっか」


 ルリは視線を斜めに落とし、前髪の先を指で弄っていた。


「変な人」


 失礼なことを言ったルリは顔を上げて微笑み、私の胸に抱き着いてきた。


「お、おい」

「お姉さ――アヤメちゃんって、なんか一緒にいて落ち着く」

「たまに布団に潜り込んでくるのはそれが理由か?」


 ルリはむっとして顔を上げ、それでもすぐに笑顔になった。


「そうかも」


 私はそっとルリの頭を撫でてやった。


「帰ろう」

「うん」


 よくわからないが、機嫌は直ったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ