祝いの席
〝今頃、ミルフィーユどのあたりだろう。何時の飛行機だったんだろう。〟
グラスを手にあちこちで談笑する今日のゲストたちを視界の隅に入れながら、セインは又ミルフィーユのことを考えていた。
「先生。」
「こんにちは。」
「先生。遅れましてすみません。」
「おめでとうございます。」
口々に挨拶をしながら入口から入ってくる生徒たちに、あいまいな笑みを浮かべながらセインは心ここにあらず、だった。
店内の中央には丸い大きなテーブルが置かれ、色とりどりの花と一緒に、おいしそうな料理が所狭しと、並び、ワインやサングリア、ビールなどの飲み物がカラフルなグラスとともに、うず高く積み上げられている。
すべてエドの采配だ。
今日はミナがミカエル展に入賞したことのお祝いだ。
うちのような小さなアトリエからまさかという思いだったが、ミナの実力はあの出展者の中では、ずば抜けていたとセインは悦に入っていた。
どこかで彼女が入選するのは当然だという驕りに似た思いを持っていたことは間違いない。
当の本人は、露ほども自分が入選するとは思ってもみなかった様子で、驚いたり、うろたえたり、いつも凛として堂に入った姿勢を崩さないミナとは別人のようだった。だけど、今日のパーティの主役は、気持ちも落ち着いたのか、いつものように華やかなオーラをまとい、多くの人の輪の中で文字通り花となっていた。
嬉しそうな自分の愛弟子の様子を見ながら、セインはいい加減に気持ちを切り替えなければ、ミナや他の生徒にも申し訳ないと思いつつ、胸のあたりがひんやりとする喪失感から離れることが出来なかった。
「先生。そろそろ挨拶を。」
生徒の一人、ナイジェルがパーティの始まりを促しにやってきた。
「うん。今行く。」
そう答えながら、セインは戸口に視線を泳がせる。
彼にはミルフィーユの他にも、気がかりなことがあった。
(ロンは来ないんだろうか。)
アトリエの生徒全員が揃った店内で、ロンの姿だけがない。
人前に出るのが苦手で、こういった賑やかな場所に尻込みをする彼を、少しでも顔を出してくれと、何度か誘ってみたのだが。「あ、あ・・・」とか、「う、うう・・・」と言葉を濁し、真っ赤な顔をして逃げるように去る彼の後姿を思い浮かべながら、セインはホールに設えた壇上に立った。




