愛していた。ずっと愛していた。
〝愛していた。いや、ずっと愛している。〟
俺のことも。母のことも。
ミルフィーユの言葉に、セインは初めて父としてのカズマを意識した。赤ん坊の自分をその腕に抱く若かりし頃のカズマの幻影が浮かんだ。
〝だけど、だとしたら何故母を置いて〟
セインは心の中でカズマに疑問を投げかけた。それを見て、エドは何か言いたげに、唇を動かしたが、思い直して口をつぐみミルフィーユの次の言葉を待った。
「軍人になれば、そう、学者の夢を諦めて軍に入れば、アメリアさんとセインをバラン家に迎えるって、もちろんセインを軍に売るなんてことしないって。最初からおじいちゃんはセインの力を利用しようなんて、その為に引き取ろうなんて思ってなかったのよ。上役にプレッシャーをかけられ、その人の娘さんとの結婚を迫られて立場上どうすることも出来ず悩んでいたおじいちゃんは表面上そう見せかけていただけなの。」
「おじいちゃんはパパに軍人になって欲しかっただけ。パパは夢を諦めて、その代わりにアメリアさんとの結婚を認めてもらおうとしたの。」
カズマは自分の長年の夢と引き換えに、親や親戚など周りの人に認め、受け入れてもらえる幸せな家庭を持つことを選んだのだ。
親の言うなりに恋人と自分の子を捨てたとばかり思っていたエドガーは驚き、気が弱く優しいだけの情けない男と蔑んで憎んでいた恋敵の顔をまじまじと見つめた。
室内はすっかり暗闇に包まれ、外灯の灯りだけが室内を薄らと照らしていた。エドの力によって扉は頑丈に閉められ、外部からは誰も入れない。4人の間に重苦しい沈黙が流れた。
「だけど、なぜそのことを母さんに・・・・」
沈黙を破ったのはセインだった。一斉に、皆の視線がカズマに注がれる。カズマは意を決したように口を開いた。
「軍の養成所に入った私からは、任期が終了するまで外部への連絡は一切取ることが許されなかった。それ以前に何度か書いた手紙は何故かアメリアに届くことはなく、ある時期から上役からのプレッシャーも、その令嬢との結婚の話からも解放された父が、彼女とその息子、つまり君だ。ジョーイを迎えに行くと連絡をしてきた。」
「それが、まさか。あの日。」
セインとエドは顔を見合わせた。




