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ミルフィーユの告白

「ミルフィーユ!」

動かない身体で肩先だけ上げ、セインも必死にミルフィーユの名前を呼んだ。

カズマの鼻先で止まり宙に浮いたままの机が、ガタンと鈍い音を立てて床に落ちた。ミルフィーユは父を抱くようにして背を向け、その衝撃から身を守った。

何とか、ふたりとも無事のようだ。

いきなり魂が抜けたかのように、次々と音を立て、宙に待っていた机や椅子が床に落ち、書類も動きを止めて、床に散乱した。


「ミルフィーユ!」

 動かない身体で肩先だけ上げ、セインは必死にミルフィーユの名前を呼んだ。

 カズマの鼻先で止まり宙に浮いたままの机が、ガタンと鈍い音を立てて床に落ちた。ミルフィーユは父を抱くようにして背を向け、その衝撃から身を守った。

 何とか、ふたりとも無事のようだ。

 いきなり魂が抜けたかのように、次々と音を立て、宙に待っていた机や椅子が床に落ち、書類も動きを止めて、床に散乱した。


「ミルフィーユ、何故ここに?」

 父は娘に抱き起こされながら尋ねた。

「パパ。私は知っているわ。全て本当のことを話して。」

 彼女は訴えるように父を見つめた。

 ミルフィーユに間に入られて 、怒りの矛先を失ったエドはどうしていいか分からず、戸惑いの表情を見せた。そして、急に萎んで枯れていく花のように肩を落とし、縮こまるようにして床に尻をついた彼を見て、ミルフィーユは懇願した。

「お願いです。マスター。パパもずっと苦しんでいたんです。アメリアさんに会いにいくことが出来ない事情があったんです。」

 それを見てミルフィーユは懇願した。

「事情って?」

 エドの声にはまだ幾分か暗らさが残っていたが、ミルフィーユの問いかけに応えるだけの気力は残っているようだ。

「いいんだ。ミル。すべてパパのせいだ。」

 弱々しい声でカズマは娘を制したがミルフィーユは続けた。

「その当時、おばあちゃんが、つまりパパのお母さんが重い病気にかかっていて、そのせいで少し精神を病んでしまっていたの。駆け落ち同然で家を出たものの、パパはおばあちゃんのことをずっと気にしていて、ある日、アメリアさんには内緒で様子を伺いに戻ったの。」

「どういうことだ?」

 エドにはカズマの母の話は思いもがけない展開だった。


 カズマの母は、末期のガンに侵されており、薬の副作用からか精神をも病んでいた。戻ってきた息子を一歩たりとも外へ出さぬように見張り続け、少しでも姿が見えないと狂ったように泣き叫び、息子を探した。

 元来、気が弱く優しいカズマはそんな母を見捨てることができず、実家からアメリアに向けて何通もの手紙を出し、少しの滞在の後、帰ることを伝えた。だが、その手紙は何故かアメリアに届くことはなく、そうこうするうちに、息子を軍の幹部にしたいという夢を持ち続けた父によって、カズマは軍人になるべく大学を辞め、軍隊に入った。

「何故だ。親の言うなりか。情けない男だ。」

 それを聞いたエドは、カズマに罵声を浴びせた。カズマは肩を震わせ言いたいことを我慢するように奥歯を噛み締めた。

「違うわ!」

 ミルフィーユが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 怒りを露わにする彼女を初めて見て、エドもセインも度肝を抜かれてうろたえた。

「パパは、パパは・・・」

 怒りで上気した頬を膨らませ、ミルフィーユは必死で言葉を探すが、涙が湧き上がり、うまく言葉が出てこない。


「ミル。アメリアとジョーイを迎えに行かなかったのは事実だ。何を言っても言い訳にしか過ぎん。」

 カズマは毅然としてそう言い、ミルフィーユの肩に手をかけた。

「いいえ。パパはもう充分苦しんだわ。マスターにも、セインにも本当の事を知って欲しい。パパもずっとアメリアさんのことを、セインのことを愛していたもの。私や私のママを愛しているのと同じくらい。パパの時間はあの頃からずっと動いている。止まってなんかいない。ずっと愛しているのよ。」


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