怒りのオーラ
その声に反応するように、凍ったように直立したままだったカズマの父がエドガーの元に駆け寄った。
「アレン。アメリアは、ジョーイは!」
カズマの父の声が彼の神経を尖らせた。
振り切るように橋の欄干から身を乗り出し、下方を必死で見つめる。
河の流れはいつものように絶え間なく流れている。ちょうど欄干の下は、流れが速い場所であった。もはや、アメリアもジョーイの姿も忽然と消えたように何も見えない。灰色の濁った水が音を立てて流れているだけだ。
「くそっ。」
反射的に、自身も飛び込もうと欄干をまたいだ時、カズマの父に抑えられた。
「離してくれ。」
「いかん。」
大事なものが、今まで彼を支えてきた全てが消えてしまった。
必死にカズマの父に抑えられ、橋の欄干の下にくずおれると、腹の底から怒りとも悲しみともわからぬ喪失感のようなものが、むくむくと湧き上がってきた。
その時だ。
「うわっ。何だ。」
彼の身体に触れていた手を咄嗟に引っ込めて、カズマの父は叫んだ。
エドガーの体が火のように熱くなっていることに気付いて。
薄っすらとした赤黒いオーラのようなものがエドガーの体から炎のように立上っているのが、肉眼でも確認することが出来た。
「どうしたん・・・」
カズマの父の声が途切れた。言い終わらぬうちに彼の身体は数メートル先まで吹っ飛んでいたからだ。
何が起こったのかわからず、その場に伏せるように伸びた状態で、カズマの父は 顔を上げた。
パリン。
小さな音がした。
最初は、豆電球くらいの大きさのガラスが割れるような音だった。
「ううぅ」
エドガーが顔を伏せたまま、呻いた次の瞬間。
パリン!
さらに大きな音を立てて何かが割れた。
身の危険を感じながらも、カズマの父は顔を上げ、必死で何が起こっているのかを確認しようとした。
それは外灯の上部から聞こえた。橋に両脇に等間隔に取り付けられている外灯。 猫の首のように細長い鉄柱の頭部に取り付けられている丸い外灯が次々と音を立てて割れ、ガラスの破片が四方に飛び散った。
「きゃあー!」
「何だ。何が起こっているんだ。」
橋の欄干から河を覗き込んでいた人々が、口々に叫んで、四方へ走り去るのを、カズマの父は伏せたまま見送った。体が恐怖で動かなかったからだ。
皆、地震か何かだと思った。ひとりでに外灯が割れるわけがない。だけどカズマの父だけは、これらのものを破壊しているのが何者なのかわかっていた。
ゴオオ。地すべりのような音がして、橋を舗装しているレンガにひびが入り始めた。
「いかん。アレン。やめるんだ。」
アメリアとジョーイを失った悲しみ。カズマへの怒り。ジョーイの力を目当てに引き取りに来たカズマの父たちへの憤り。そして、愛する人を救うことができなかった自分への激しい憤怒。それらの感情に揺さぶられ、完全にエドガーは自己を見失っていた。




