超能力者狩り
「人の気持ちがわかる子供。2歳近くになっても片言しか話さなかったが、お前は何も言わなくても人が思っていることがわかるようだった。それを俺もアメリアもさして特別なこととも思わず、暮らしていた。だが、バランの家のやつは、お前のその不思議な力を軍事目的に利用しようとしていたんだ。」
青白いカズマの顔からさらに血の気が引いた。
ショックを隠しきれず、彼は呻いた。
「嘘だ。」
「嘘じゃない!」
エドの眉が吊り上った。
「お前の父親が、セインを引き取りたいとやってきた。息子にはしかるべきところから嫁を迎えたいがため、アメリアを迎え入れることは出来ないが、息子の血を引いた子供は引き取りたいと。」
「そんな。」
カズマは絶句した。本当に何も知らない様子にみえた。
「勿論アメリアが承知するわけがない。そのうち、お前の父親以外にも、お前の父親が所属する軍の人間の何人かが、入れ替わり立ち代りアメリアの家に交渉しにやって来るようになった。」
「アメリアは詳しいことは何も俺には話さなかったが。俺はセインのあの力が欲しくて、引き取ろうと来ているんじゃないかと思った。あの頃の政治は狂っていた。」
エドは吐き捨てるように言った。それに同調してカズマは深く頷き、
「超能力者狩り。」
と、呟いた。
「超能力者狩り?」
セインはその異様な言葉の意味を理解しがたく、オウム返しに反復した。
「そうだ。今は失墜して他国へ亡命しているが、あの時の大統領は、サイキック、テレキネシス、テレパシー、透視など不思議な能力を持つ者を集め、養成所に入れて軍事力の一環にしようとした。多額の報奨金を目当てに、自ら志願する者や、親や兄弟、親類を売る者もあったが、ほとんどは、軍による〝超能力者狩り〟によって、つまり無差別に、無理やり力ずくで養成所に連行された。」
感情のこもっていない声で答えるエドの顔は、青ざめ、小刻みに体が震えているのをセインは固い表情で見つめた。
「・・・まさか、エドも?」
エドは小さく頷き、
「自分が他の者と少しばかり違うのではないかと思い始めたのは、学校を出たばかりの頃だった。」
在学中に両親を相次いで事故でなくし、エドガーはひとりになった。何とか、義務教育だけは受けたが、無論ハイスクールに通う余裕も術もなく、昔から好きだった料理の道に入った。コックの修行をしながら、大好きなアメリアと、そのひとり息子のジョーイと過ごすひと時がエドガーの心許せる至福の時だった。
だが、両親を亡くしたばかりの頃、寂しさから、当時入所していた身寄りのない子供たちが入る施設を抜け出し、街を徘徊していた。悪い仲間と遊びや酒、喧嘩に明け暮れた。ごろつきと始終喧嘩をしていた頃、自分の能力に気がついた。直接相手に触れることなく、気を込めるだけで相手が倒れる様を見て、まさかと思い、その次の瞬間、それは自分自身に対する恐怖に代わった。恐ろしくて、その事実を受け入れることが出来なくて、エドガーは自然に悪い仲間から外れ、自分の力を封印した。
悪い仲間と遊ぶようになっても、最後まで自分を心配してくれていたアメリアとその母に報いる為、悪い遊びから足を洗い、必死にコックの修行に明け暮れた。
その頃、ジョーイの特殊な能力に気がついた。当時、無差別に連行される超能力者狩りからジョーイを守ることを固く決意した。だが、どこからかジョーイの能力に関する噂が流れ、それを聞きつけたカズマの父や軍の人間にアメリアは追い詰められていた。
「無論、俺も超能力者狩りに遭うまいと気をつけていたが、まさかセインのことを聞きつけてやってくるとは思いもしなくて、何とかセインだけは守らなければと思っていた。セインを連れて、他所の地へ移ることを俺はアメリアに何度も説得した。一緒に行こうって、何度もプロポーズをした。だけど、アメリアが愛していたのはお前だけだった。」
エドはカズマを見て、顔を歪めた。苦しそうに胸を押さえ、頭を何度も振った。
「カズマを待っているって。アメリアは追い詰められながらも、お前を信じて、最後までお前を待っていた。あの時も。」




