セインの過去
「そう、あの頃のお前はとうもろこしの綿毛のような金髪で、よく笑う子供だった。アメリアはお前をミドルネームのジョーイと呼んでいた。この子には楽しいことがいっぱいありますようにって。ディケンズはアメリアの性だ。何故入籍しなかったのかは知らんが、彼女は戻らない恋人を、お前の父親をずっと待ち続けていた。信じてたんだ。バランが帰ってくることを。ずっと。」
エドは当時のことを思い出して遠い眼をした。それをカズマは悲しげにうな垂れてじっと話を聞いていた。
「俺の髪の毛は金髪だったのか。」
まっすぐに伸びた燻銀のように深い色合いを持つこの髪が、ミルフィーユのような金色だったとはとても信じられなかった。
「そうだ。俺がお前を探し当てた時、お前は5歳になっていた。ここから遠く離れたエリシアの街の孤児院だ。お前は微かに俺のことを覚えていて、警戒しながらも俺と一緒に来てくれた。その時には金色の髪が今のような銀髪になっていて、俺も驚いた。その後、医者にも診せたが、たぶんいろんなことが心の負担になったんだろうって。」
「心の負担?」
「ああ。エリシアの孤児院で聞いたが、河に落ちたお前を見つけたときにはすでに髪の色はこの色だったそうだ。」
「河に落ちたって?」
「そう、あれは。」
カターン。
カズマが倒れた椅子につまずきながら、倒れそうなる身体を必死で支えている様子が見えた。
「バランさん。」
ふらつきながらこちらへ向かおうとするカズマを、助けようと身体を起こすのだが、自分を押さえつけていた力は緩んだものの、依然そこにセインを縛り付けるように大きな負荷がかかっていて、セインには自分の身の自由さえきかなかった。
「そうだ。アレン。教えてくれ。アメリアの最後のことを。ジョーイが消えたときのことを。」
依然、カズマはエドのことをアレンと呼んだ。そして、自分の恋人であったアメリア、セインの母親の最後のことさえ知らないでいたようだ。セインは驚いた。この人も何も知らないまま長い年月を過ごしていたのか。
「何が教えてくれだ。今まで何も知らずにのうのうと過ごしてきたやつに。」
言いかけたエドの言葉をセインが遮った。
「教えてくれ。エド。俺も真実を知りたい。」
少しの沈黙があった。準備室の窓から差し込む夕暮れの陽が、少しずつ濃い闇に飲まれるように色を変えつつあった。初春の陽がすっかり傾いた後の部屋の中の暗さは、エドが長い間ひとりで抱えてきた暗い過去の重さのようであった。




