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不思議な子供

 あれ、2歳か3歳だったよなあ。

 いつものようにアメリアの家を訪れたエドが、いつものように自分の家のように勝手にリビングまで行き、床に転がった積み木で遊んでいたジョーイに声を掛けた。

「おい。ジョーイ。ご機嫌だな。」

 振り返ったジョーイが人懐こい笑顔を向け、じっとエドの目を見たかと思うと、ふと立ってキッチンまで行き、水を汲んできた。

「あ、あい。あい。」

 たどたどしい言葉で、エドにコップを差し出し、飲めと手振り身振りで訴える。

「お、ありがと。」

 ちょうど喉が渇いていた。

「お前、気が利くな。」

 頭を撫でてやると、キャッ、キャッと、嬉しそうに奇声を上げ、彼に抱っこしてもらおうと腕をばたつかせた。

 そこへアメリアが入ってきた。

「あら、来ていたの。」

「ああ。」

「お茶でもいれるわね。」

 キッチンへ立とうとした彼女を制して、

「いや、いいよ。今ジョーイが水を汲んできてくれた。」

「あら、気が利くのね。いい子ね。ジョーイ。」

 母親に褒められて、ジョーイはまた嬉しそうに奇声を上げた。


 ソファに並んで座ったふたりは、この愛らしい赤ん坊について不思議な話をし始めた。

「どうもね、ジョーイは人の心がわかるみたいなのよ。」

 アメリアが秘密を共有するようにこっそりと、だけど少し得意そうにエドに話しかけた。

「さっきの水も?」

 アメリアが頷き、

「この間もね、買い物に行った時、私が買おうとしていた物をジョーイが次々持ってくるのよ。最初は遊び半分でやっているんだなって思っていたのだけど、どうも違うのよ。私が思うより半歩先にジョーイが買おうとしている物を指差すの。トマト、キャベツ、次はチーズだね、ママって。そんな感じで嬉しそうににこにこしているの。」

「不思議だなあ。」

 エドは首を傾げた。だけど、彼にも思い当たる節がいくつかあった。

「そういえば先週、ジョーイを近くの水路へ遊びに連れて行っただろう。」

 アメリアはそうだったわねと、先週の記憶を辿った。

「俺、まだ何も言っていないのに、玄関先でいつもの靴じゃなくて、サンダルを引っ張り出してんだよ。あいつ。水遊びするぞって、誰も言ってないのに。」

 ジョーイは、サンダルを手に持って、早く行こうと言わんばかりに、せっかちにエドの手を引っ張った。〝何でお前、俺の考えてることわかるんだよ。〟聞くと、ジョーイは嬉しそうに奇声を上げるが答えようとはしない。最も、近所の子供に比べてジョーイは言葉が遅いらしく、2歳を過ぎてもまだ片言しか言えない。アメリアもそれを気にはしていたが、子供には成長の過程による個人差があるからしょうがないわよ、そう母親から諭されるたびに納得はするのだが。

 片言しかしゃべれない代わりに、人の考えていることがわかる子供。

 ジョーイはそんな不思議な子供だった。だけど、母親のアメリアとアメリアを慕う幼馴染で、半ば父親のようにジョーイの面倒を見ていたエドにとって、そんなことはどうでもいいことだった。それに、当時15歳だったエドと、17歳で年若い母親になり、当時まだ20歳前だったアメリアには、そんな不思議なことさえごく自然に当たり前のように受け入れることが出来るだけの心に柔軟性があったのだ。少し変わった力。不思議な赤ん坊。だけど、それは神様から与えられた特別で素敵な力なのだと、母親とその幼馴染は少々得意げにふたりだけの秘密にしたのだった。


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