96 武勇伝はこの際いいの
「どっ、どっ、どっ、どうしよう。エウフェミア。俺、エウフロシネに嫌われた~?」
「お父さん。落ち着いて。何があったか初めから話して」
「うっ、うん。実は……」
事の次第を聞いたエウフェミアは脱力感を禁じえなかった。
(百人だかの荒くれ海の男を束ねるお父さんが、エウフロシネちゃんのことになると、どうしてこうなんだろ?)
◇◇◇
エウフェミアは大きく深呼吸した後、切り出した。
「いい? お父さん。これから、あたしの言うことをよく聞いて。そうしないと、エウフロシネちゃんとのこと、あたしも保証できないよ」
「はっ、はひ」
「まずは、エウフロシネちゃんが『人材育成機関』の島に行くのをこれ以上、止めないこと」
「ええーっ?」
「いい。今のエウフロシネちゃんは恋する乙女です。それを無理矢理止めたら、それこそ一生口きいて貰えなくなるかもよ」
「そんな、エウフロシネはまだ十歳で。俺が十歳の時なんか、恋愛のれの字もなかったんだぞっ! それこそ、危険だから行くなと言われた海域行って、黄金魚獲ったのはいいんだが、帰りに舟沈んじまって、死んだ親父に死ぬほど殴られて……」
「お父さんの武勇伝はこの際いいの。男の子と女の子は違うんだし、これ約束して貰わないと、あたしもエウフロシネちゃんとの仲は取り持てません」
「はっ、はひっ。わかじました」
「よろしい。但し、行かせるのはいいけど、いついつまでに帰ることって約束させて、送り出して。その約束破ったら、もう行かせないってことにして」
「はっ、はひっ」
「それを守ってくれるなら、あたしからエウフロシネちゃんに、『お父さん、大嫌い』とか言わないように言ってあげましょう」
「あ、有難うございます。エウフェミア様」




