95 大事なことなので二度言いました
「な、なあ、エウフロシネ」
「何?お父さん」
「『人材育成機関』の島に行く件なんだが……」
「それが何?」
エウフロシネは猛禽類のような鋭い眼光で、ティモンを一瞥した。
ティモンは早くも気圧されたが、勇気を振り絞って、次の声を出した。
「やっ、やっぱり、危ないんじゃないかな? ほら、軍事用の訓練施設だし……」
「……」
その時のエウフロシネの表情は鬼気迫るものがあった。
(人間、本当に怒った時は静かに怒る。そして、それが一番恐ろしい)
ティモンはそんなことを思った。
「エウフロシネからは言い難いだろうから、お、お父さんから坊っちゃんに謝っておくよ。うん。やっぱり、軍事用の訓練施設は危ないから、行けない、ごめんねって」
「…… お父さん」
「はっ、はい」
「お父さんは、坊っちゃんが信用できないって言うの? あれだけお世話になっておいて……」
「そっ、そんなことはないぞ。うっ、うん。坊っちゃんは立派な少年と思っているぞ。うん」
「その坊っちゃんが大丈夫って言ってるのに、お父さんは『危ない』って言うの?」
「いっ、いや、それでも、軍事用の訓練施設は危ないし、エウフロシネが心配で」
「もういい……」
「へ?」
「お父さんが何言おうが、あたしは『人材育成機関』の島に行きます」
「そっ、そんなあ。お父さんはエウフロシネを心配して……」
「もういい。お父さんなんか大嫌い」
痛恨の一撃にティモンは力なくその場に崩れ落ちた。
エウフロシネは黙ったまま、その部屋を去った。
◇◇◇
「エウフェミアッ! エウフェミアッ!」
大学の寮の自室で眠りについていたエウフェミアは実家からの無線通信にたたき起こされた。
「ん~っ、どうしたの? お父さん」
寝ぼけ眼で通信に出たエウフェミアにティモンの悲痛な声が響いた。
「エウフロシネがっ! エウフロシネがっ!」
「えっ? エウフロシネちゃんがどうしたの?」
エウフェミアの脳裏を不吉な予感がよぎった。
(まさか、また、拉致された? それとも、大ケガ? 急な大病?)
「『お父さんなんか大嫌い』と言った」
「…… はい?」
「エウフロシネが『お父さんなんか大嫌い』と言ったんだーっ!」
(…… お父さん、大事なことなので二度言いましたね。はああ~)
エウフェミアは大きな溜息をついた。




