75 まとめて地獄に送ってやる
だが、アナベルと相対する敵の指揮官は全く別のことを感じていた。
(他の二人が押され始めている……)
旦那さんは「気分屋」であるという欠点を持ち、相対する指揮官はそれを利用し、旦那さんのモチベーションを上げないよう努めることで釘付けにしてきた、
だが、それにも限界がある。相手の闘争心を掻き立てないように、冷静に受け止め続けるのは精神力を消費する。
緊張が途切れれば、旦那さんの実力からして、相手は瞬殺である。
ラティーファは身体能力こそそう高くはないが、超心理学技術の才能があり、また、それを巧みに引き出す坊っちゃんのアドバイスもある。
ラティーファは少しずつだが、優勢になってきていた。
(まずい。ここは俺が目の前の『アナベル』と『シナン』をとっとと倒し、他の二人の応援に行かねば)
アナベルと相対する敵の指揮官は、レーザーセイバーを握り直した。
◇◇◇
「死ねぇいっ!」
アナベルと相対する敵の指揮官は、正面から斬撃を加える。
レーザーセイバーが強い光を発する。
迫りくる刃への恐怖とレーザーセイバーの光の眩しさに、アナベルは思わず眼をつぶってしまう。
アナベルが斬られるっ! 周囲では悲鳴が上がる。
◇◇◇
がしいぃー
一帯に金属音が響く。
次の瞬間、周囲の者は見た。
敵の指揮官のレーザーセイバーをシナンの左腕のレーザーガンがブロックしているのを。
だが、超合金製のレーザーガンは、レーザーセイバーの衝撃を受け、溶解し、白い水蒸気を立ち昇らせている。
「シナンさんっ!」
たまらずアナベルは叫ぶ。
「だいじょう……ぶっ、ぼく……のひだり……う……では、ぎしゅ……だから」
シナンはそう言うが、大丈夫な訳がない。
シナンの義手は高性能で、高度に彼の神経系統と接続されているのだ。
シナンの表情は苦痛に歪む。
左腕を取り外せればいいのだが、高温になっており、外せるような状態にない。
「てめぇっ! この野郎っ!」
敵の指揮官は激怒する。
「そうかいっ! じゃあ、てめえら、二人まとめて地獄に送ってやるっ!」
敵の指揮官は、レーザーセイバーをもう一度、振り上げた。




