72 勝負する気あるのかっ
「ふんっ」
敵の指揮官は、軽く斬撃を加える。
ラティーファは必死の形相で、それを受け止める。
「やはりか……」
敵の指揮官の冷たい口調は続く。
「戦闘訓練を受けていないな。超心理学的技術で逆転を狙っているのか?」
「……」
ラティーファは何も答えない。
いや、答える余裕もないのか。
「みなさんっ!」
坊っちゃんが呼びかける。
「ここはラティーファと僕に任せて、先に進んで下さいっ!」
周囲はざわめく。
「そんなっ! ラティーファさんが大変そうなのに、先になんか行けませんよっ!」
エウフェミアは悲痛な叫びを上げる。
シナンは静かに頷くと、右手でエウフェミアの左肩をやさしく叩いた。
「エウフェミアちゃん。ここはラティーファちゃんと坊っちゃんの好意に応えよう。何としてもエウフロシネちゃんを助けるために。アナベルさんと皆さんも一緒に来てください」
シナンたちは脇をすり抜けるように次の鉄の扉に向かった。
「ふっ」
敵の指揮官は小さく笑った。
(予定通りだ……な)
◇◇◇
旦那さんと敵の指揮官の力勝負は長引いていた。
旦那さんの心中には、ふつふつと怒りが湧き上げてきた。
「おいっ、てめぇっ! 勝負する気あるのかっ?」
「何を言うか。たった今、勝負をしているところではないか?」
敵の指揮官は、しれっと返した。
「そっちからは一切攻撃せず、こっちが撃ち込めば、力勝負にして長引かせる。どういうつもりだ?」
「どういうつもりも、こういうつもりもない。我々は常に勝つために最も合理的な選択をしているだけだ」
「くっ」
旦那さんの焦燥感は増していく。
それに伴い、レーザーセイバーの光も鈍くなっていくようだ。
(これが狙いか。セイバーの光を弱くして、戦闘力を下げる。いや……もっと他に何かある気もする)




