70 えっ、そんなことまでしたんですか
中では70代くらいの男性だろうか、頭部にはヴァーチャルリアリティシステムが装備されている。
坊っちゃんたちの侵入に気付くと、男性は怯えたように飛びのく。
そして、あわててヴァーチャルリアリティシステムを頭部から外そうとするが、うまく外せない。
「星間警察職員」が羽交い絞めにし、別の「星間警察職員」が外そうとするが、やはり外れない。
坊っちゃんはおもむろに近くにあったシステムの機械をレーザーブラスターで破壊する。
すると、ヴァーチャルリアリティシステムはようやく外れ、脱力した状態の男性が残された。
◇◇◇
「な、なんだ? あんたたちは?」
「他の島から来た者です。すぐにこの施設から逃げて下さい」
坊っちゃんの呼びかけに、男性は力なく答えた。
「この島には逃げるところなんかないよ。逃げてもすぐにここに連れ戻されちまう」
「! 貴方は望んでここに来たんじゃないんですか?」
「とんでもねぇっ! 誰がこんな地獄に望んで来るかよっ!」
男性は吐き捨てるように言った。
「宜しければ、何があったか教えて貰えませんか?」
男性はゆっくり話し出した。
◇◇◇
「ヴァーチャルリアリティの施設が出来たのは、どのくらい前だったか。何でこんな田舎に来るのか不審に思ったけど、大枚はたいて土地は買ってくれるし、凄い儲かる施設だって言うから、うちの島長が受け入れを決めちまった」
「……」
「ところが、始まってみれば、儲かるのは施設の連中だけで、俺らには全然回って来ねぇ。逆に施設に通いつめる奴がたくさん出てきちまった」
「……」
「施設の利用料は高い。だから、通いつめる奴は制限量を遥かに超えて、魚を獲れるだけ獲って、売りまくった。そうこうするうちに魚も獲れなくなっちまった」
「ああっ、それで」
「魚が獲れなくては、稼げない。普通ならそういう奴は施設に行っても門前払いの筈なんだが、あそこは受け入れた。体力のある奴は、あそこの兵隊になり、そうでない奴は……」
「……」
「二度と帰って来なかった。噂では、人でない化け物にされ、戦わされて、みんな、死んで行ったという話だ」
「……」
「もともと人の少ない島だ。そんなことをしていれば、施設に通う奴は誰もいなくなる。そうしたら、施設の奴らは、わしら通わなかった人間を無理矢理施設に連行し、ヴァーチャルリアリティマシンにかけた」
「ええっ? そんなことまでしたんですか?」
坊っちゃんは驚愕した。
「ビル・エル・ハルマート」でも「戦争犯罪」と言われるほどの凄惨さがあったが、それでも、ヴァーチャルリアリティマシンにかかるか否かは、あくまで自由意志だった。
「わしらは、仲間と語らって脱走したこともある。だが、兵隊はまだしも、あの指揮官は信じられない程強い。わしらは全員ぶちのめされ、連れ戻された」
「……」
「二度目の脱走の時は、抵抗するのを止め、隠れることにした。ところが、あの指揮官はどこに隠れても見つけてしまう」
「……」
「だから、この島はもうこの施設の他に人はいないんだよ。逃げても無駄なんだ」
「逃げて下さい」
坊っちゃんは力を込めて言った。
「いや、逃げても無駄だって……」
「あの指揮官は、僕たちが倒します」
「!」
「だから、逃げて下さい。念のため『偵察局員』を護衛に何名かつけます」
「わかった」
男性は頷いた。
「お願いして悪いが、ここには、わしの他に無理矢理連れてこられた島の人間がたくさんいる。みんな、外から施錠されていて、逃げ出せない。全員、助けて貰えないか?」
男性の願いに、坊っちゃんは笑顔で応える。
「もちろんです」
「あ、あの」
ここでエウフェミアが前に出てくる。
「この施設に、10歳くらいの女の子が連れて来られませんでしたか」
男性は首を捻る。
「島中の人間が連れて来られたからね。そのくらいの年の子も見たかもしれん。ただ、あんたが捜している子かどうかはわからないよ」
「わかりました。さあっ、どんどん部屋を捜しましょう」
エウフェミアの提案に、一行は頷いた。




