67 うう うらやましい
「つまりはそういうことなんですよ」
シナンが溜息混じりで、解説する。
「えーとえーと。つまり、あの男の人がラティーファさんに『お守り』を渡した『大切な人』ってこと?」
エウフェミアの質問に、シナンは更に溜息混じりで、答える。
「100パーではないですが、ほぼ正解です」
次にアナベルが質問する。
「それで、あの二人は付き合ってるんですかっ~?」
シナンの溜息混じりの口調は変わらない。
「そうだったらどんなにいいか。いっそそうして貰った方が、こっちも諦めがつくのに。ミラー社長とシラネさんみたいに……」
シナンは最後に大きな溜息をついた。
◇◇◇
雑木林の中では、何やらラティーファが一方的にまくしたてるような声がしばらく続いた。
その後、ラティーファは、満面の笑みで右手で旦那さんの左手を握ると、ゆっくり歩いて戻って来た。
群衆はざわめく。
「やはり…… 女の強姦魔か?」
「はたまた痴女か?」
「うう、うらやましい。俺も襲って」
「30歳以上は襲わん」
「何だと。このショタコン」
坊っちゃんは呟いた。
「恐らく出会ってからのことを全部一方的にまくし立てたんでしょうね……」
シナンも頷く。
「やっぱそうか」
「でもね。あれが馬鹿にならないんですよ。チャージオンすると、僕ですら忘れられちゃうのに、ラティーファのことだけは、微かにでも、憶えてるんですよ」
「本当。うらやましいなぁ。あんなにラティーファちゃんに思われてさ」
(えっ?)
坊っちゃんは思わずシナンを見入ったが、その表情は真剣だった。
◇◇◇
エウフロシネの奪還はすぐに実行されることになった。
輸送機の着陸は、敵方も情報把握していると思った方がいい。
「帝国航宙軍」が哨戒してくれてるとは言え、対抗して援軍を呼ばれると厄介だ。
そして、何よりエウフロシネ本人への「洗脳」が何より懸念される。
ティモンは島で最も頑丈で、高速な船を提供した。
だが、今度の相手は、肉食魚とは、訳が違う。
「本当は自分自身で乗り込み、エウフロシネを救い出したい」
ティモンは、唇を噛んだ。
「だが、自分には『島長』としての責務もある。非戦闘員は、エウフロシネだけではない。自分はそちらも守らなければならない」
「……」
「よろしくお願いします」
ティモンは、一行に頭を下げた。
「絶対無事に取り戻します」
坊っちゃんは握りこぶしに力を込めた。




