66 何だと この変態
輸送機はゆっくりと着陸態勢に入る。
二機の護衛機は中空を旋回しているが、敵の妨害はないようだ。
「あ、ほら、坊っちゃんだよ。手を振っている。隣に旦那さんもいる」
シナンの言葉に、ラティーファも地上を見る。
「あ」
その男はいた。
相変わらずボケーッとした顔で、ぼんやりと外を眺めている。
ラティーファの心臓は、早鐘を打ち始めた。
(坊っちゃんは『アクア3』に来てから、一回、チャージオンしたと言ってたと言うことは、あたしのことは完全には憶えていない。だけど、部分的には憶えていたりするんだ。もうっ、どうして旦那さんは、いつもいつも、あたしの心を惑わせるんだ)
エウフェミアとアナベルは、地団駄を踏むラティーファを呆然として見ている。
事の真相を知っているシナンだけは、深い溜息をついた。
◇◇◇
着陸後、真っ先に降りるのは、今回の代表であるシナンと案内役のエウフェミアである。
受け入れ側の島の者たちは、ティモンを先頭にシナンには、丁寧に頭を下げた。
次にエウフェミアが降りると、もう島の者たちは統制が取れなくなった。
「上のお嬢。俺らがしっかりしてねぇもんで、下のお嬢がさらわれちまった。申し訳ねぇ」
「あたしらもねぇ、一度はエウフロシネちゃんを舟に乗せたんだよ。それがちょっと目を離した隙に降りちまって、もっとよく見てれば、こんなことには……」
荒くれ海の男たちと荒くれ海の女たちは、口々に謝罪の言葉を述べる。
エウフェミアは笑顔で「いいんですよ」と言って回る。
最後にティモンが「エウフェミア。本当に悪かった」と頭を下げた。
エウフェミアはこれにも笑顔で「お父さん、大丈夫だよ。今のあたしには、本当に頼りになる友達がたくさんいるんだよ。エウフロシネちゃんは必ず助け出すから」と話した。
(ほうー)
ティモンは驚いた。
(これが、あの泣き虫だったエウフェミアか? 大学へ行ってから何があったんだ?)
三番目に降りたのは、ラティーファである。
これには、坊っちゃんが駆け寄って行った。
「お姉ちゃんっ!」
ラティーファも笑顔を見せる。
「坊っちゃん。大変だったね。でも、もう大丈夫。あたしらも来たから」
問題なのは、その後である。
ラティーファの姿を見つけて以来、しきりに首をかしげていた旦那さんだが、不意にラティーファを指差すと叫んだ。
「あーっ! 俺のむさいのを何とかして、いろいろ教えてくれる人ーっ」
そこからは電光石火だった。
ラティーファは旦那さんの口を右手で塞ぐと、光速で近くの雑木林に連れ込んだ。
「なんだなんだ?」
「女の強姦魔か?」
「いいなぁ。俺も襲って貰いたい」
「あたしが襲ってあげようか?」
「30歳以上はお断り」
「何だと、この変態」
エウフェミアとアナベルは唖然として、この光景を見ていた。




