64 それは無茶過ぎるよ
「いや、それは無茶すぎるよ。坊ちゃん。」
坊ちゃんを諫めた後、シナンは振り向く。
「ラティーファちゃん」
「ん」
シナンの呼びかけに、ラティーファは応じる。
「危険なのに悪いけど『ビル・エル・ハルマート』で坊っちゃんと組んで、一人倒しているよね。お願いしたいんだ」
「ん。怖いけど、やってみる。ただでさえ『洗脳機関』は許せないのに、エウフェミアちゃんの妹を拉致するなんて、もう許せないっ!」
「よし。後は僕だが、正直、一人で敵の指揮官と戦うのは、勝算が無さ過ぎる」
「『ビル・エル・ハルマート』の時は、シラネさんと二人で倒したんだったね」
「シラネさんが来てくれれば、文句ないけど、正直、今は一刻を争う。こっちまでくるのに時間がかかりすぎる。坊っちゃん、エウフェミアちゃんのお父さんはどうかな?」
「ティモンさんですね。荒くれ海の男たちのリーダーですから、戦闘力はある方ですが、僕たちがエウフロシネちゃんの奪還に向かっている間、敵がこの島を別動隊で攻撃しない保証はありません。島を守る人も必要です」
「そうか、ほかに誰かいないか……」
思案するシナンに、ラティーファが意見を出す。
「あと、ほかに頼りになりそうなのは…… アナベルさん!」
「そうか、『星間警察』のアナベルさんか。あの人も指揮官と戦ったことはないけど、あのやる気は買えるかも……」
「あたしがシラネさん通じて『星間警察』と『ミッドラント財閥』の協力を頼んでみるよ。坊っちゃん、いったん、通信切るね」
「あ、待って。ラティーファ。僕も『偵察局』に武器と人員を頼んでみる。後で結果を連絡しあおう」
「うん。わかった」
ラティーファが通信を切ろうとすると、エウフェミアが制止した。
「待ってください。あたしも行きます。あたしの分も武器をお願いします」
「え?」
ラティーファは驚いた。
「エウフェミアちゃん。戦闘したことないでしょ。大丈夫?」
「戦闘したことはないです。それにとても怖いです。でもそれでも、拉致されたのは、あたしの妹です。『洗脳機関』にいいようにされているのは『アクア3』なんです」
「……」
「いつまでもみなさんのお世話にだけなっていられません。あたしも行きます。エウフロシネを助けに」
シナンはにっこり笑って頷いた。
「うん。僕たちも心強いよ。一緒に行こう」
◇◇◇
シラネもさすがに指揮官が相手と聞くと、自分が行くと言い出した。
だが、「ビル・エル・ハルマート」は辺境中の辺境である。
どうしても駆け付けるまで日数がかかる。
エウフロシネに「洗脳」の危機が差し迫っている以上、シラネを待つ訳にはいかない。
やむを得ず「ミッドラント財閥」経由で「星間警察」と「偵察局」に強い支援要請を出した。
「偵察局」内部では、坊ちゃんも武器と人員の支援要請を出している。




