62 おいっ てめぇ それでいいのかよ
いくら元気で、大人ぶっても、エウフロシネは普通の10歳の少女である。
たやすく捕らえられ、連行されていく。
黒づくめの指揮官は静かに通告した。
「娘は確かに預かった。返して欲しくば、貴様のところにいる『偵察局員』二人を武器を取り上げ、縛り上げた状態で差し出せ。後はこの島の全財産だ。こんなもんじゃないはずだ」
「……」
「特に期限は定めない。だが、この娘は、我らの島に連れ帰り次第、『ヴァーチャルリアリティマシン』にかけさせて貰う」
「!」
「早めの全面降伏をお勧めする。狂信的暗殺者と化した自分の娘に殺されたくなければな」
ティモンと坊っちゃんは、その場に立ったまま、何も出来なかった。
◇◇◇
エウフロシネを拉致した黒づくめの指揮官が舟に乗り、島を離れたのと同時刻、旦那さんと戦っていた方の黒づくめの指揮官は、力勝負でぶつかり合っていたレーザーセイバーを外そうとしてきた。
(!)
旦那さんは、気付いた。
(こいつ、この場から逃げようとしてやがる)
怒りと失望の感情が、旦那さんを襲った。
(せっかく強い奴との一騎打ちが出来たのに、こいつは……)
旦那さんは、怒りに任せて強力な斬撃を黒づくめの指揮官に向けた。
黒づくめの指揮官はしっかりと受け止めると、後ずさりし、逃走の態勢に入る。
「おいっ、てめぇ、それでいいのかよっ!」
旦那さんは、怒りの言葉をぶつける。
黒づくめの指揮官は、一瞬たじろぐが、後ずさりを続ける。
「こおのぉっ!」
旦那さんは、レーザーセイバーを振り上げ、突進する。
黒づくめの指揮官は完全に逃走を開始した。
「えっ? えっ?」
敵方の正規兵は状況の変化に反応しきれない。
「ええい、雑魚は場所を開けろっ!」
旦那さんは、レーザーセイバーを振り回しながら、追走する。
そのあおりで、敵方の正規兵はバタバタ倒れていく。
「よおっしっ! もうこっちの勝ちだっ! 逃げ遅れた奴らをとっつかまえろっ!」
荒くれ海の男たちの意気は上がる。
黒づくめの指揮官は、一人で船に飛び乗ると、エンジンをかけ、他の船を弾き飛ばして、船着き場を脱出した。
「ああっ」
逃げ遅れた兵の悲鳴が上がる。
「あんの馬鹿野郎。何が指揮官だっ! つえぇくせに、部下全員見捨てて逃げやがった」
旦那さんの顔は怒りで真っ赤になっていた。レーザーセイバーは見る影もなく、鈍い光になってしまっていた。
◇◇◇
荒くれ海の男たちは戦勝に沸いたが、それは僅かな時間でしかなかった。
「エウフロシネが捕まっちまったんですかい?」
「ああ」
ティモンは力なく頷いた。
「僕がちゃんと言っておけば良かったんです。『心配しないで、舟の上で待ってて』って」
坊っちゃんが周囲に頭を下げる。
「だけどっ」
坊っちゃんは、すぐに頭を上げた。
「すぐに取り返します。絶対にっ!」
外部から通信が繋がっていることに気づいたのは、その時だった。
「あ、ティモン。何で、何回繋いでも、誰も出ないの?」
ティモンは疲れ切った声をしていた。
「エウフェミアか。大変なことになってな。実は、エウフロシネが敵に拉致されてしまったんだ」
「ええーっ。そんなっ」




