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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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62/230

62 おいっ てめぇ それでいいのかよ

 いくら元気で、大人ぶっても、エウフロシネは普通の10歳の少女である。


 たやすく捕らえられ、連行されていく。


 黒づくめの指揮官(コマンダー)は静かに通告した。

 「娘は確かに預かった。返して欲しくば、貴様のところにいる『偵察局員』二人を武器を取り上げ、縛り上げた状態で差し出せ。後はこの島の全財産だ。こんなもんじゃないはずだ」


 「……」


 「特に期限は定めない。だが、この娘は、我らの島に連れ帰り次第、『ヴァーチャルリアリティマシン』にかけさせて貰う」


 「!」


 「早めの全面降伏をお勧めする。狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)と化した自分の娘に殺されたくなければな」


 ティモンと坊っちゃんは、その場に立ったまま、何も出来なかった。



 ◇◇◇



 エウフロシネを拉致した黒づくめの指揮官(コマンダー)が舟に乗り、島を離れたのと同時刻、旦那(だん)さんと戦っていた方の黒づくめの指揮官(コマンダー)は、力勝負でぶつかり合っていたレーザーセイバーを外そうとしてきた。


 (!)

 旦那(だん)さんは、気付いた。


 (こいつ、この場から逃げようとしてやがる)


 怒りと失望の感情が、旦那(だん)さんを襲った。

 (せっかく強い奴との一騎打ちが出来たのに、こいつは……)


 旦那(だん)さんは、怒りに任せて強力な斬撃を黒づくめの指揮官(コマンダー)に向けた。


 黒づくめの指揮官(コマンダー)はしっかりと受け止めると、後ずさりし、逃走の態勢に入る。


 「おいっ、てめぇ、それでいいのかよっ!」

 旦那(だん)さんは、怒りの言葉をぶつける。


 黒づくめの指揮官(コマンダー)は、一瞬たじろぐが、後ずさりを続ける。


 「こおのぉっ!」

 旦那(だん)さんは、レーザーセイバーを振り上げ、突進する。


 黒づくめの指揮官(コマンダー)は完全に逃走を開始した。


 「えっ? えっ?」

 敵方の正規兵は状況の変化に反応しきれない。


 「ええい、雑魚は場所を開けろっ!」

 旦那(だん)さんは、レーザーセイバーを振り回しながら、追走する。


 そのあおりで、敵方の正規兵はバタバタ倒れていく。


 「よおっしっ! もうこっちの勝ちだっ! 逃げ遅れた奴らをとっつかまえろっ!」

 荒くれ海の男たちの意気は上がる。


 黒づくめの指揮官(コマンダー)は、一人で船に飛び乗ると、エンジンをかけ、他の船を弾き飛ばして、船着き場を脱出した。


 「ああっ」

 逃げ遅れた兵の悲鳴が上がる。


 「あんの馬鹿野郎。何が指揮官(コマンダー)だっ! つえぇくせに、部下全員見捨てて逃げやがった」

 旦那(だん)さんの顔は怒りで真っ赤になっていた。レーザーセイバーは見る影もなく、鈍い光になってしまっていた。



 ◇◇◇



 荒くれ海の男たちは戦勝に沸いたが、それは僅かな時間でしかなかった。


 「エウフロシネ(お嬢)が捕まっちまったんですかい?」


 「ああ」

 ティモンは力なく(うなず)いた。


 「僕がちゃんと言っておけば良かったんです。『心配しないで、舟の上で待ってて』って」

 坊っちゃんが周囲に頭を下げる。


 「だけどっ」

 坊っちゃんは、すぐに頭を上げた。


 「すぐに取り返します。絶対にっ!」


 外部から通信が繋がっていることに気づいたのは、その時だった。

 

 「あ、ティモン(お父さん)。何で、何回繋いでも、誰も出ないの?」


 ティモンは疲れ切った声をしていた。

 「エウフェミアか。大変なことになってな。実は、エウフロシネが敵に拉致されてしまったんだ」


 「ええーっ。そんなっ」




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