58 乗り換えたのか
「いかん。みなさん、30秒だけ、時間を稼いで下さい」
シナンはそう言うと、レーザーガンを下げ、出力調整をし直す。
「ようし」
再度、レーザーガンを水平に構え、狂信的暗殺者の頭の高さに照準を定める。
「喰らえっ」
◇◇◇
ズガガガガガガガァーン
威力を上げたレーザーガンは一気に大勢の狂信的暗殺者をなぎ倒す。
「今だっ! 行くぞっ!」
星間警察職員は突撃を駆ける。
戦局は一挙に終盤に突入した。
◇◇◇
狂信的暗殺者は全滅した。
「出来たら、何人か生きたまま捕縛したかったですね」
アナベルは呟く。
「そうですね……」
シナンも応じる。
生きたまま捕縛出来れば、治療する術も探せるかもしれない。
だが、こう相手の攻撃性が強くてはそれも難しい。
◇◇◇
話はこれで終わらなかった。
狂信的暗殺者が閉じ込められていた部屋の奥には、更に頑丈そうな鉄扉が控えていた。
さすがのシナンも発砲による破壊は控えた。
内部にガスが充満している可能性が見て取れたからである。
星間警察職員は開錠の専門班を呼び、慎重に作業させた。
そして、開いた先には、やはり、あれがあった。
洗脳に耐え切れず、死んだ者のたくさんの遺体であった。
「何てこと」
アナベルは叫んだ。
「これが人間が人間に対してやることなのっ?」
極めて治安の良い学術研究惑星で惨死体など見たことのない地元警察の者など嘔吐している者もいる。
星間警察の者も衝撃のあまり言葉を失っている。
一人がようやく言葉を絞り出した。
「君。これは一体?」
シナンは淡々と答えた。
「これが、僕たちが戦ってきた相手なんですよ」
◇◇◇
数日後、シナンにラティーファ、それに、エウフェミアはマリア教授の研究室に招かれていた。
「思う存分、無線通信を使え。通信料は大学にツケといてやる」
というマリアの好意を受けてのことである。
「出ないですねぇ。多忙なんでしょうか?」
エウフェミアは溜息をついた。
「ティモンもエウフロシネも出ないの?」
ラティーファの問いに
「出ないんですよ~。繋がってることは間違いないんですが」
エウフェミアは嘆く。
「じゃあ、先にシラネさんに繋いでみようか?」
ラティーファの提案に、
「はいっ」
エウフェミアは明るく応じた。
◇◇◇
「おぅっ、元気そうだな。わが友よ。その分じゃ『洗脳機関』退治はうまくいったか?」
相変わらずのシラネ節で通信は始まった。
「はいっ。シラネさんが『星間警察』に協力依頼してくれたおかげで助かりました」
ラティーファは、笑顔で答える。
「ラティーファちゃ~んっ。僕の活躍ぶりもちゃんとシラネさんに言ってよ~。頼むよ。わが婚約者~」
シナンが入れた茶々に、
「何~っ? ラティーファちゃ~ん。旦那さんからシナン君に乗り換えたのか~?」
シラネも合わせる。
「乗り換えてませんっ!」
ラティーファは力強く否定する。
「またまた~。隠さなくてもいいよ~」
更にかぶせるシラネだが……
「シラネさ~ん」
「はっ、はい」
「それ以上言うと、いくらシラネさんでも怒りますよ」




