57 呆れた 自分たちでそうした癖に
シナンがレーザーガンで大穴を開けた後方の壁から、赤みを帯びた眼をした人間が続々とその不気味な姿を現している。
「資料では見てたけど、改めて見ると凄いですね。これ」
アナベルは戦慄した。
「こうなると、俺たちでも、制御出来る自信がねぇ。逃げさせて貰うからな」
アナベルを捕縛していた男は、女と運転手を促し、逃げ出さんとする。
「逃げるのは勝手だけど、僕らが最初に出入り口の鉄扉をぶち破って、その後、学生たちがビルから逃走してから、どれだけの時間がたったと思う? 外はもう『星間警察』と『地元警察』に囲まれてるよ」
シナンは冷たく言い放つ。
「くっ」
男は唇を噛む。
「それでもっ! 俺は、あんな『人でなくなったもの』の相手をするなんざ御免だ。逃げるからなっ!」
男と女と運転手は階段を上に向かって行く。
「呆れた。『人でなくなったもの』だって。自分たちでそうした癖に」
ラティーファは心底呆れかえった。
一階から、怒号ともみ合う音が聞こえて来た。
いよいよ、『星間警察』と『地元警察』がビルにまで、入って来たらしい。
◇◇◇
「君たち、学生だね。こんなところで何をしてるんだ?」
地下にまで降りて来た警官の問いに、シナンは赤みを帯びた眼をした人間たちを指差した。
「説明は後でします。今はあいつらを退治しないと危ないですよ」
「うわっ、何だ? あれは?」
警官たちは初めて見る「狂信的暗殺者に、恐怖した。
「『狂信的暗殺者ですよ。事前資料で見ませんでしたか?」
アナベルは星間警察職員に言う。
「あれがそうか、聞きしに勝る……」
◇◇◇
「来ますよ。私に銃を下さい」
アナベルの声に、一人の星間警察職員は手持ちの銃を渡す。
アナベルは銃を真正面に構えると、狂信的暗殺者を射撃し始める。
同時にシナンもレーザーガンを撃ち始める。
星間警察職員は、それを合図に、射撃に次々参加する。
しかし、狂信的暗殺者について、事前に知らなかった地元警察の警官たちは、茫然として、立ちすくむばかりだった。
◇◇◇
警察が被疑者を射殺するのは、通常は最後の手段である。
あくまで、最初は、生きたままの捕縛を目指す。
従って、初めは相手の手や足を狙う。頭部は狙わない。
そんな警察職員にとって、腕や足が千切れても、進んでくる狂信的暗殺者は常識外の化け物だった。
「な、なんだ、こいつら」
「頭です。頭を狙って下さい。そうしないと止まりません」
シナンの声に、ようやく星間警察職員は我に返る。
「残念ですが、あれはもう人じゃありません。射殺するしかないんです」
シナンの悲痛な叫びに、星間警察職員は頭部を狙いだす。
だが、倒しても倒しても狂信的暗殺者は次から次へ出て来た。
◇◇◇
「一体、どれだけいるんだ? こいつらは」
星間警察職員は叫ぶ。
「それだけこの施設にうちの学生が餌食になったと言うことです」
シナンが応じる。
「馬鹿なっ! こんなものあちこちに作られたら、この惑星、いや、この銀河帝国は亡びるぞっ!」
星間警察職員たちにも、疲労の色が見えて来た。




