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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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55/230

55 かなり口が悪いけどね

 「よっしゃあっ、こっちのターンだっ」


 シナンは前に躍り出ると、射撃して来る男たちを遮蔽物たる車ごと撃った。


 車は次々炎上し、ビルから出て来た男たちは全滅した。


 「よーし、ビルの中に入るよ。慎重にね」

 シナンの言葉に、ラティーファは、


 (慎重な人は、鉄扉をレーザーガンでぶち破ったりしないと思うけどね)

 と思ったが、黙って(うなず)いた。



 ◇◇◇



 ビルの一階には、たくさんの個室が設置されていた。


 個室内で一人ごとにヴァーチャルリアリティが体験出来るシステムになっているらしい。


 シナンは持参の拡声器を使って、怒鳴った。

 「ヴァーチャルリアリティを体験中のみなさん、このヴァーチャルリアリティシステムは違法で-す。すぐに警察が立ち入って来るんで、やばいと思った人は、車を置いたまま、とっとと逃げちゃって下さーい」


 その声を聞くや否や、出るわ出るわ、数多くの男女学生たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


 ついでに従業員も逃げて行った。


 「逃がしちゃっていいの? いろいろ事情聴取する必要があるんじゃない?」

 ラティーファの問いに、シナンは答える。


 「その辺が、世間知らずなんだろうけど、逃げたって、ここの名簿や何より車を置きっぱなしでいけば、後で身元はすぐ割れるよね。まだ、奥に敵はいるだろうから、邪魔にならないよう、逃げて貰った方がいいよ」


 「えっ? まだ、敵はいるの?」


 「ラティーファちゃん、レーザーセイバー見て」


 見ると、レーザーセイバーは鈍く光っている。


 「うん」

 ラティーファは大きく(うなず)いた。



 ◇◇◇



 それから、シナンとラティーファは、会計(キャッシャー)と個室を一つ一つ確認していった。


 残敵の確認のためである。また、逃げ遅れた学生を逃がす目的もあった。


 会計(キャッシャー)も個室も、見事なくらい人はいなかった。


 だが、一つだけ、施錠されたままの扉が見つかった。


 それを見た、シナンとラティーファは、(うなず)き合った。


 シナンは、ゆっくりレーザーガンを構える。


 「待って!」

 ラティーファはシナンを制止する。


 「部屋の中から、声が聞こえる…… 泣き声だ」



 ◇◇◇



 ラティーファは扉の正面に立たないよう、気を付けながら、左手で扉をノックする。


 「駄目っ! 入って来ないでっ!」

 

 中から返って来た声の主は……


 「エウフェミアちゃんっ!」

 ラティーファは思わず声を上げた。


 「その声は、ラティーファさん?うっうそっ、シナン君の他に、ラティーファさんまでいるの? お願い、あたしのことは放っといて」


 シナンは諭す。

 「いや、それは駄目だよ。ここは危険過ぎる。他の学生(ひと)たちにも逃げて貰った。一刻も早くここから逃げてっ」


 「いいからっ! あたしのことは、放っといてっ! あたしなんか死んだ方がいいんだっ!」


 「駄目。駄目だよ。死ぬなんて言っちゃ。エウフェミアちゃんが死んだら、みんな、どんなに悲しむと思う?ネックレスを交換した妹さん、お父さん、『アクア3(スリー)』の人たち、それに、あたしだって悲しいよ」

 ラティーファも涙声になってきている。


 「それでも、駄目なの。あたしは。弱くて、こんなことしてちゃ駄目って、わかっているのに、ヴァーチャルリアリティに手を出しちゃった。二人のように強くないの」

 エウフェミアは完全に涙声だ。


 「あたしだって、あたしだって、弱いんだよっ!」


 「そんな、あたしから見れば、ラティーファさんは強くて……」


 「弱いよ。いつだったか、エウフェミアちゃんに、この『お守り()』のことを聞かれた時に、あたしは、答えられなかった」


 「……」


 「この『お守り()』からみの人のことになると、あたしは感情的になって、どうにもならなくなっちゃうんだ。でもね……」


 「……」


 「あたしには、シラネさんという、まるで、本当のお姉さんのような友達がいて、全部、受け止めてくれるんだ。だから、あたしは何とかなっている」


 「……」


 「あたしはね、エウフェミアちゃんから見て、あたしにとってのシラネさんみたいになりたいんだ。あたしじゃ駄目かな?」


 「あっ……」


 「うん?」


 「有難う。ラティーファさん」


 「うん」


 「あ、あたし。もう少し頑張って……みる」


 「うん。あたしだって、もう少し、もう少しって、言って、やっとやってるんだよ」


 「それと……」


 「うん」


 「あたしも、そのシラネさんって人と会ってみたい……」


 「うん。今度、一緒に会おう。ちょっと、いやいや、かなり口が悪いけどね」

 ラティーファはビルに入って、はじめて笑った。


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