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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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51 今のをどう返せと

 「これを見て」


 シナンは一枚のチラシをラティーファに見せた。


 それにはこう書かれていた。


 「がんばって、うまくいかなくて、心身ともおつかれのあなた、最新式のAI対応のヴァーチャルリアリティでリフレッシュしてみませんか?」


 ラティーファの顔色も変わった。

 「これは……」


 シナンは黙って(うなず)いた。


 「こんなチラシが学内で堂々と配られてるの?」

 

 ラティーファの疑問に、シナンは答える。


 「いや、堂々ではないけどね。その証拠に、ラティーファ()は、知らなかったろう」


 ラティーファは(うなず)く。

 「うん。知らなかった。シナン君は、どうやって手に入れたの?」


 シナンは真剣な表情のまま、続ける。

 「うん。大人しい感じの女の子がいたので、ナンパして、飲み屋で一緒に飲んでて、彼女がトイレに行ってる間にバッグから抜き取った」


 ラティーファは絶句した。

 (参 今のをどう返せと。今までのシリアスな雰囲気は何だったんだ?)


 シナンは構わず続ける。

 「どうも、悩んでる感じの真面目な人を、個々に狙っているみたいだ。で、僕やラティーファちゃんには、気付かせないようにする。『洗脳機関()』も馬鹿じゃない」


 「…… だけど、舐められたもんね。あたしらのいる学校で、こんな真似を」


 「いいとこの子弟が多いからね。大学(ここ)は。金も取れると踏んでるんでしょ」


 ラティーファの脳裏をあることがよぎった。

 「そう言えば、エウフェミアちゃんは大丈夫? あの()も、真面目過ぎる程真面目だから」


 シナンは目を閉じ、頭を少し前に下げて、額に右手の指をつけた。

「この間、声をかけてみたけど、思い詰めている風だった」


 ラティーファは立ち上がった。

 「シナン君。すぐ、シラネさんに秘密通信を繋いで。あたしの大事な親友が悪党に食い物にされる前に叩き潰さないと」


 シナンは黙って(うなず)いた。 



 ◇◇◇



 シラネは相変わらず多忙の身だったが、ラティーファからと言われるとすぐ駆け付けた。


 ラティーファから大学内部に「洗脳機関」が入り込んでいると聞くと、さすがに驚愕の様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。


 「お金持ちの子が多いからね。それに大学(そこ)は。世間知らずばっかだし、狙われる要素はあるね」


 「何とかなりませんか?」


 ラティーファの問いに、シラネはしばらく黙考してから答えた。

 「あたしが行ければ、話が早いんだけど、何しろ、こっちは辺境だからね。行くにも時間がかかる。旦那さん(兄貴)と坊っちゃんは、やっぱり『洗脳機関』の調査で、他の惑星(ほし)に潜入中って言ってたしなぁ。でも、ラティーファちゃん、早く決着つけたいでしょう?」


 「それは、本当にそう思います」

 ラティーファは力を込めて、答えた。


 「あっ、そうだ。シナン君のレーザーガン、出力調整できたっけ?」


 シラネの質問に、シナンは胸を張って、答える。

 「もちろんです。最新式ですよ」


 「ふーん。それなら『市街戦(シティーファイト)』でも対応できるか。後はあんまり当てにも出来ないけど、ミッドラントCEOを通じて、星間警察にも人を出して貰うように頼んでみるよ」


 「助かります。チラシには、相手方の連絡先しか書いてない。僕がアポ取ろうとしても、とぼけられる可能性が高い。面が割れてない星間警察の人が連絡してくれると助かる」


 「あの、あたしも行きます」

 ラティーファは決意を込めた表情で言った。


 「えっ? ラティーファちゃん、それは危ないよ」

 危ぶむシラネに、ラティーファはキッパリと言う。


 「いえ、行きたいんです。あたしはあいつらに殺されそうになったこともある。それに……」


 シラネはニヤリと笑った。

 「旦那さん(兄貴)が戦っている敵でもあるしな。少しでも追いつきたいか?」


 ラティーファは真っ赤になって、反論した。

 「そういうことじゃありませんっ! あたしだって、レーザーセイバーを持ってるんですっ!」


 シラネはなおも笑いながら続けた。

 「分かった。そういうことにしておくよ。でも、くれぐれも無理は禁物。やばくなったら、逃げるんだよ」


 「はい……」 

ラティーファは(うなず)いた。



 ◇◇◇



 相手方への連絡は、おとなしめの女子学生に偽装した星間警察職員が行った。


 相手方の返事は、

 「あいにく、予約がいっぱいで、一週間後、もう一度、連絡を下さい。キャンセルが出たら、こちらから連絡しますので、そちら様の連絡先を教えて下さい」だった。


 星間警察職員は偽名と個人的な連絡先を告げて、いったん通信を打ち切った。


 「どう思います?」

 星間警察職員の問いに、シナンは即答した。


 「恐らく、警戒してるんでしょうね。さっき言った名前が、向こうの標的リストにいるか検索して、なければ、そういった学生が本当にいるか調査するんでしょう。そのための一週間」


 「となると、そういった学生が本当にいるか怪しいとなると」


 「何回連絡しても『予約』はいっぱいでしょうね」

 シナンは溜息をついた。


 「ねぇ。あたしたちの他に『ビル・エル・ハルマート』から留学している子に頼んでみる?」

 ラティーファの提案には、


 「『ビル・エル・ハルマート』出身者はマークされている可能性が大きいね。何しろ、こないだの内乱の後、第10拠点を調査したら、何が出て来たか知っているだろうと相手も推測するだろうし」

 シナンは懸念を示した。




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