表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/230

50 お主も悪よのぉ

 「敵襲があったら、逃げて下さい」


 「!」

 旦那(だん)さんの言葉に、ティモンは絶句する。


 「いつでも島を脱出できるように、島民全員が乗れる船の数を用意しといて下さい」


 「……」


 「後は俺と坊っちゃんで応戦します。破壊活動もするでしょうから、持てるだけの財産も持って……」


 旦那(だん)さんが言い終わる前に、ティモンは右手で制した。


 「旦那(だん)さん」


 「……」


 「海の男を舐めんでくだせぇ」


 「!」


 「貴方がたは、いよいよ食うに困るかってぇとこまで、追い詰められていた私らに肉食魚(ガレオス)漁って、希望をくれた。その恩は忘れちゃいねぇ」


 「……」


 「相手方が、貴方がたの言う通り、やべえ奴らなら、成程、女子供は逃がしやしょう。だが、私らはっ」


 「!」


 「銃剣持って、一緒に戦わせて貰いやす」


 「……」


 「なぁ、おめぇらっ、どうせ、後ろで聞いてやがんだろっ。出て来やがれっ!」


 その声と共に、大人数の荒くれ海の男たちがわらわら出て来た。


 「何だよ。島長(しまおさ)。気付いてたんかよ」


 愚痴る荒くれ海の男に、ティモンは一喝する。

 「おめぇらに『こっそり』なんて芸当が出来る訳ねぇだろっ」


 「うーっ、血が騒ぐっ。なぁ、旦那(だん)さんっ。敵はいつ来るんだ?」


 荒っぽい質問に、旦那(だん)さんも盛り上がってくる。

 「そりゃあ、早ければ今夜でも」


 「おーっ、そりゃいいぶちのめしてやるぜ」


 ズガーンズガーン


 一人の興奮した荒くれ海の男が中空に発砲する。


 「馬鹿野郎。屋根に穴が開くだろう。それに弾丸(たま)がもったいねぇ」


 ティモンは一喝するが、荒くれ海の男はめげない。

 「屋根ぐれえ何だ。この何倍も敵に穴開けてやんよ」


 周囲は大爆笑になった。気付けば旦那(だん)さんも一緒になって、大笑いしている。


 強い者と戦いたい。そういった気持ちが根底のところで、繋がっているのかもしれない。


 坊っちゃんは思った。

(はぁ~。何なんだろう? この陽気さ。「ビル・エル・ハルマート」の時は、みんな、凄い緊張していたのに。所が変われば、こんなに人も変わるのかな?)



 ◇◇◇ 



 その日は雨だった。


 悪天候は、エウフェミアの憂鬱さに拍車をかけたようだった。


 「あ」

 エウフェミアは気付いた。


 (シナンさんだ。珍しい。一人でいる)


 見るとシナンはゆっくりとキャンパスに向けて、歩いて行く。


 (周りに他の人もいないし、声をかけてみようかな? 悪い人じゃなさそうだし、少しはあたしの憂鬱も晴れるかも)

 そんなエウフェミアの思いをよそに、シナンは急に駆け出した。


 「ラティーファちゃ~んっ」


「!」


 エウフェミアの目の前で、シナンはラティーファに向けて、突進した。


 「ねぇねぇ。これからお茶しない~」


 「あんたはもう~っ、見境というものがないのっ? こっちは暇じゃないのっ!」


 だが、ラティーファもシナンが彼女を両腕で囲うことを装い、右手のひらを見せつけていることに、すぐ気付いた。


 そこには短い文章が書かれていた。


 「『洗脳機関』の者に監視されている。調子を合わせて」と。


 ラティーファは大きく溜息をついてみせ、それから、答えた。

 「もうっ、しょうがないなぁ~。あんたとは同郷だし、ちょっとだけ付き合ってあげるよ」


 シナンは小躍りした。

 「そーお、こなくっちゃあ」


 エウフェミアは、連れだって歩く二人を茫然と眺めていた。


 やがて、エウフェミアは、バッグからくしゃくしゃになった一枚のチラシを取り出した。


 それにはこう記されていた。


 「がんばって、うまくいかなくて、心身ともおつかれのあなた、最新式のAI対応のヴァーチャルリアリティでリフレッシュしてみませんか?」



 ◇◇◇



 「で、男子寮のあんたの部屋で密会って訳?」

 ラティーファは、呆れたように言う。


 シナンは笑顔のまま返す。

 「仕方ないじゃん。女子寮は男子禁制だから、僕は入れないしさ。本当に飲み屋やカフェで話してたら、みんな聞かれちゃうしね」

 

 「それもこれもあんたが有名人だからでしょ。何なのナンパ師のくせに、成績だけは学内トップって」


 「何をおっしゃいます。砂漠の王女様(プリンセス)には、かないませんよ。おまけに、最近はクールビューティーマリア先生とも妖しい仲で」


 「ああ、あれね」

 ラティーファは、小さく溜息をついた。


 「やっぱりね。こないだの特別ゼミの時、エウフェミアちゃんに、何の力にもなれなかったじゃん。あたしも気になってたけど、マリア先生も気にしててね」


 「ほうほう」


 「何とか、エウフェミアちゃんの惑星(ほし)を豊かにする手はないかって、マリア先生と一緒にいろいろ考えて……」


 「はあはあ」


 「やっぱり決定的な一手ってないのよね」


 「そうでしょうねぇ」


 「だけど、まるっきり何も出来ない訳でもないんだ。『アクア3(あの星)』、土地が狭いから、大きな宙港が作れなくて、輸出やるのに、凄いハンデ背負ってるのよね。かと言って、海上宙港はコスト高いし」


 「うんうん」


 「そこでっ! おじいちゃんが、研究開発中の『垂直離着陸航宙機』の出番な訳だよ。あれなら、狭い宙港をものともしない」


 「いよっ、待ってましたっ!」


 「しかも、未だ研究開発中だから、試験運用って名目で無料(ただ)で使わせてあげるの」


 「ラティーファ屋。お主も悪よのぉ」


 「誰が『悪徳商人』ぢゃ。今のところ、話がそこまで行ってるところ。ところで……」

 

 ラティーファはここで、言葉をいったんためた。


 「あんたの方の話は?」


 シナンはいつになく、真剣な顔になった。

 「うん。これから話す」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >海上宙港 海上だと高いのですね (;'∀') 実はコッソリ海の方が安いのだと思ってました。 工場誘致(?)でつくられた航宙機登場ですね(`・ω・´)b
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ