表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/230

49 飲む? それとも、コーヒーにする?

 すり潰し担当をしている坊っちゃんは、気付いた。


 (あっ、あれは……)


 若い男たちの一歩後ろに立つ男は……


 (間違いない。「ビル・エル・ハルマート」でマフディの軍の指揮官(コマンダー)だった男と同じ装いだ。しかも、あいつらと同じくらい強い)


 坊っちゃんは緊張した。


 (さすがにこの場ですぐ攻撃はしかけては来ないだろうが、これはそう遠くないうちに来るぞ)


 「坊っちゃん。ほらまた、手が止まってるよ。また、考え事?」

 エウフロシネが笑顔で語りかける。


 「あ、うん。ごめんね」

 坊っちゃんは笑顔を返すと、作業を再開した。


 (「洗脳機関」の糸口からこっちに来た。だけど、ここは「ビル・エル・ハルマート」の「第12拠点」と違って、天然の要塞じゃない。非戦闘員の人を逃がさないと、下手をすると「虐殺」されかねない)


 坊っちゃんは、笑顔で作業するエウフロシネをちらりと見てから、思った。


 (今夜にも、旦那(だん)さんと一緒に島長(しまおさ)に、僕たちのことを話そう。手遅れにならないうちに)



 ◇◇◇



 「ヘイッ! そこのカーノジョッ」

 日課の活動に精を出すのは、もちろん「てんなん」ことシナンである。


 「そうそう。きみきみ。我が愛しのラティーファちゃんの親友(マブダチ)の、そーう、エウフェミアちゃん」


 「え? 私ですかぁ?」

 怪訝そうな顔をするエウフェミアだが、それでめげるシナンではない。


 「あれ? 今日はラティーファちゃんとつるんでないの? 珍しい」


 「ラティーファさんは、マリア先生の所に行ってます。この間の特別ゼミで気に入られたみたいで、最近、良く行ってるんです。いつも一緒みたいに言わないで下さい」

 エウフェミアは、不機嫌そうに答えるが、シナンは当然めげない。


 「じゃあさ。僕と飲みに行こうよ。あ、未成年ならカフェでもいいや」


 「私は貴方みたいな天才じゃないんですっ!」

 エウフェミアは、ついにキレた。


 「いつもいつも、色んな女の子とお酒飲んでばっかりいても、学内トップが取れる天才じゃないんですっ!おまけに、私の惑星(ほし)は、どこより条件が悪いから、私が頑張らなければいけないのに、成績は伸び悩む一方で」

 エウフェミアは、次第に涙声になっていった。


「正しい方向に向かっていれば、いつか、正しい成果が出る。時間はかかるかもしれないが」


 「?」

 急に真面目なことを言いだしたシナンに、エウフェミアは当惑した。


 シナンはニッコリと笑った。

 「僕の尊敬する人の言葉だよ。その人の名前は『アブドゥル・ラフマーン』」


 「『ラフマーン』って?」


 「そう。ラティーファちゃんのおじいちゃんだよ」


 「……」


 「今でこそ、エウフェミアちゃんの憧れの惑星(ほし)になった『ビル・エル・ハルマート』だけど、本当、大変だったんだ。アブドゥルさん自身も(かたく)なな面もあったしね」


 「……」


 「でも、それでも『この惑星(ほし)を良くしたい』という気持ちを貫き通したから、最後は成果が出たんだよ」


 「……」


 「それとね、マリア先生とラティーファちゃんのこと、嫌いにならないで欲しいな。あの二人は、僕と違って、真面目過ぎる程、真面目だから、気軽に人を励ますこととかが出来ないんだよ」


 「分かったようなことを言わないで下さいっ」

 更に怒るエウフェミアだが、シナンは最後までめげない。


 「後さぁ、たまには『アクア3(故郷の星)』と無線通信するのもいいと思うよ。きっと、みんな、『すぐに成果を出せ』なんて言わないで、見守ってくれてると思うよ」


 「……」


 「で、どうする? 飲む? それとも、コーヒーにする?」


 「その話、まだ、続いてたんですかぁ?」


 (でも、噂と違って、いい人なのかもなぁ)

 エウフェミアはそんなことも思った。



 ◇◇◇



 「『偵察局員』ですか……」

 ティモンはやっと言葉を絞り出した。


 「隠していてごめんなさい」

 坊っちゃんは頭を下げた。


 「いや、私らのような田舎者には、縁遠い話だと思ってたもんで、驚きました」


 「いえ、こちらも大した者じゃないです」


 「それで……」

 ティモンは座り直した。


 「あの黒ずくめの男が貴方がたの追っていた犯罪組織の者ってことですか?」


 「そうです」

 坊っちゃんも緊張した面持ちである。


 「前の任務地でも、狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)を使った攻撃を受けました。非戦闘員でも平気で攻撃してきます」


 「…… 私たちも」

 ティモンも緊張している。


 「まるっきり平和を愛する無辜(むこ)の民という訳ではありません。漁場の取り合いで銃撃戦にもなる。だから、ここは『アンバーゾーン』なんです」


 「……」


 「だが、暗黙の了解で、非戦闘員には手を出しません。正直、当惑しています」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  アクア3、少しずつ核心に迫ってきました。  ラティーファたちと、どう繋がって行くのか楽しみです。  ゆっくりですが、読ませて戴いてます。  
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ