48 やっと来たかい 楽しませてくれるんだろうな
その日は、朝から不安定な天気だった。
ティモンは、早々にその日の出漁の中止を決めた。
坊っちゃんは、残っていた肉食魚の加工作業に従事することにした。
旦那さんは、そっち方面は戦力外であることは知れ渡っているので、個室で休むことにした。
だが、坊っちゃんと旦那さんは、同時に感知した。
「来るっ」
その時、威嚇するような大きなエンジン音を響かせながら、小型の船舶が入港してきた。
旦那さんは、静かにレーザーセイバーを抜刀した。
それは通常の肉食魚狩りの時より、数段、明るく輝いていた。
「やっと来たかい。楽しましてくれるんだろうな」
旦那さんの左眼は、鋭く光った。
◇◇◇
船着き場は騒然となった。手に銃剣を持った若い男たちが、上陸をせんとしたからである。
「待てっ! この島に上陸するなら、その銃剣は置いていけ」
島側の者の制止に、若い男たちはぶっきら棒に答えた。
「勘違いするな。俺たちは『話し合い』に来たんだ。戦闘しに来たんじゃねぇ!」
「なら、尚更、その銃剣は置いていけ」
「何だとっ。ここで『強行上陸』してもいいんだぜっ」
船上の若い男たちは銃剣を水平に構える。
島側も銃剣を持った荒くれ海の男たちが、続々と駆け付ける。
船着き場は、一触即発の状況となった。
◇◇◇
その時、船の奥から、真っ黒いローブを羽織った不気味な男が現れた。
ローブの男が、船上の若い男たちに何やら話すと、全員が銃剣を下げた。
一人の船上の若い男が言った。
「分かった。あんたらが言う通り、今日は戦闘をしに来たんじゃねぇから、銃剣は船に置いておいてやる」
船上の若い男たちは、金庫を開け、銃剣を仕舞うところを見せた。
それを見た島側の者たちも、銃剣を下げた。
船上の若い男たちは上陸すると言った。
「島長に会いたい。聞きたいことがある」
◇◇◇
「よくまあ、こんな天気の悪い日に船を出したもんだね」
ティモンは呆れたように、若い男たちに言った。
若い男たちは総勢五名。後ろに一人真っ黒いローブに身を包んだ正体不明の男が控えている。
「勘違いされちゃ困るな。俺たちは品行方正な漁師なんだ。天気のいい日は魚を獲ってるんだよ」
(どこの世界に銃剣構える品行方正がいるもんか)
ティモンは、更に呆れた。
「ところで、ティモンさんよ。随分、あんたんとこは、最近、羽振りがいいようじゃねぇか」
「おかげさんでね」
「否定しねぇんだな。あんたんとこは、漁獲制限破ってるだろう。そうでなきゃそんなに儲かる訳がねぇ」
「漁獲制限は守っている。獲ってるのは漁獲制限外の肉食魚だ」
「ガレオスーッ?」
若い男はいきり立った。
「ふざけんなよっ。あんなしょんべんくせぇ魚が食える訳ねぇだろっ!」
「ちゃんとした加工をすれば、食えるし、売り物にもなる。手間はかかるがね」
「ごまかすなら、もっとうまくやれ。白々しいにも程がある」
「何なら加工場見るか? 軌道に乗ったら、他の島にも教えようと思ってたからな」
ティモンは、若い男たちを加工場に案内した。
◇◇◇
加工場は、分業体制に切り替わっていた。
肉食魚を解体し、魚肉を切り出す者。
切り出された魚肉をすり潰す者。
すり潰された魚肉を水洗いする者。水切りする者。
消臭が終わった魚肉を揚げる者。茹でる者。
「ひでぇ臭いだな」
若い男たちの一人は鼻をつまんだ。
「ふっ、慣れてくると、そうでもないぞ」
ティモンは笑った。
「儲かってるのか?」
別の若い男が問う。
「ああ、だが、その金は使っちまわないで、後で設備投資に使いたいんだ。水洗いと水切りあたりから機械化したいからな。また、一緒にやりたいという島があれば、一緒にやりたい。大規模化すれば、機械もいるだろう」
「肉食魚だって、そんなに獲ってばかりいたら、いなくならないか?」
の質問には、
「その辺は考えて獲っていくつもりだ。休漁期間もいると思う。それに肉食魚は食物連鎖の頂点だ。肉食魚が減れば、捕食されていた他の魚が増えるだろう」
と答えた。




