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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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45 山のようにとっつかまえて来い

 「肉食魚(ガレオス)どもを山のようにとっつかまえて来い。全部、ミンチにしてやるから」


 勇ましい声援を受け、船は肉食魚(ガレオス)狩りに、意気揚々と出港した。


 船長はティモン。乗組員は旦那(だん)さんと坊っちゃん、他に10名の荒くれ海の男たちである。


 目的海域に到着すると、ティモンの指令で、撒き餌、鮮度が落ちてしまい、食用にも、売り物にもならなくなった魚肉が撒かれた。


 「うおぅ、来た来た」


 飢えている肉食魚(ガレオス)が続々と集まってくる。


 そこを坊っちゃんがレーザーブラスターで次々射殺する。


 その死骸を目当てに集まってくる新しい肉食魚(ガレオス)も坊っちゃんが次々仕留めていく。


 「今だ~。網を投げろーっ」

 ティモンの指令一下、荒くれ海の男たちは網を投げ、肉食魚(ガレオス)の回収にかかる。


 お目当ての他の肉食魚(ガレオス)の死骸を人間どもに横取りされた一部の肉食魚(ガレオス)は怒りのあまり、ジャンプして、船上の人間どもを襲わんとする。


 それを退治するのは、旦那(だん)さんの仕事だ。


 レーザーセイバーを軽く振っただけで、肉食魚(ガレオス)はばたばた倒れていく。


 (なんてぇ、凄い人たちだ)

 ティモンは、旦那(だん)さんと坊っちゃんの活躍ぶりに目を奪われた。


 (最近の趣味の肉食魚(ガレオス)フィッシングする人はレーザーまで持っているのか。時代は変わった。凄い時代になった)



 ◇◇◇



 「島長(しまおさ)。もう、これ以上、積めませんぜ」


 乗組員の言葉に、ティモンは我に返った。


 「よーしっ。この海域から脱出するぞっ!」

 ティモンは船を全力前進させた。


 なおも追いすがる肉食魚(ガレオス)を、旦那(だん)さんと坊っちゃんが仕留め、船は海域を脱出した。


 (これはこの惑星(ほし)の産業革命の先駆けになるかもしれん)

 ティモンは思った。



 ◇◇◇



 肉食魚(ガレオス)を満載した船の帰還は、大歓声をもって、迎えられた。


 荒くれ海の男たちは、獲った肉食魚(ガレオス)を次々と船着き場に放り出し、荒くれ海の女たちはそれを嬉々として、共同調理場に運んだ。


 「坊っちゃん。何してんの? 早く降りてきて」


 「うっ、うん」

 船着き場の光景に圧倒されて、立ちすくんでいた坊っちゃんは、エウフロシネの言葉で我に返った。


 「さっ、行くよっ。あたしも、肉食魚(ガレオス)を調理することになってんの、坊っちゃん、手伝って」


 「うん」


 エウフロシネは右手で、坊っちゃんの左手をしっかり握ると、共同調理場に誘導した。



 ◇◇◇



 「見てて」


 エウフロシネは10歳の少女とは思えない手際の良さで、肉食魚(ガレオス)の頭を切り落とした。


 続いて、ヒレを切り落とした後、きれいに皮をはぐ。更に身を切り出して、小骨を取る。


 (へ~)

 思わず見とれてしまう程の包丁さばきである。


 正直、ラティーファやシラネでは、とても出来まい。


 「!」

 集中していたエウフロシネは、坊っちゃんの視線に気付いた。


 「そんなに見られると緊張するよ」


 「ごっ、ごめん」

 坊っちゃんは、視線をそらした。


 (でも、先に『見てて』と言ったのは、エウフロシネ(あの子)のほうじゃあ)



 ◇◇◇



 エウフロシネは、大きなすり鉢とすりこ木を持って来た。


 「すり鉢の中に、身を入れたものを、すりこ木で、すり潰して、これは坊っちゃん(貴方)の仕事だよ」


 「う、うん」

 坊っちゃんは、すり潰しを始めた。


 ふと見ると、周りの女性陣は、肉食魚(ガレオス)の解体。男性陣は「すり潰し」と分業しているようだ。



 ◇◇◇



 「やってるねぇ。でも、この臭いはたまらんなあ。何か小便みたいな臭いで」


 「もう、お父さん。冷やかしで来たなら、帰って」


 「ああ、ごめんごめん」

 ティモンは、エウフロシネに素直に頭を下げる。


 いつの間にか、陽は沈んでいた。だが、作業している者たちに疲れの色は見えない。


 「うん。上等上等」

 エウフロシネは、坊っちゃんのすり潰した身を見て、合格点をつけた。


 「後はこれを丁寧に水洗いして、水を切る。それを三回繰り返すの。これは一緒にやろ」


 「うっ、うん」


 坊っちゃんは、エウフロシネと一緒になって、水洗いと水切りを繰り返した。


 何だか不思議な気持ちだった。


 (砂の惑星では、いつ敵が攻撃してくるかわからなくて、戦闘してるか、戦闘準備してるかだったもんなあ。こんなことやるとは思わなかった)


 ふと、視線を上げると、エウフロシネのそれと合った。


 エウフロシネはにっこり笑うと言った。

 「手が止まっているよ。何か考え事?」


 「ごっ、ごめん」


 「んっ、いいんだ。誰だって考え事くらいするもんね」

 エウフロシネは、また、にっこりと笑った。




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