44 何だか妙なことになっちゃったなぁ
「えっ」
坊っちゃんは、驚いた。
エウフロシネの父は説明を始めた。
「実は、この惑星は水産業が生命線なんだが……」
「……」
「ここへ来て、急速に漁獲量が落ちている。住民もギリギリ食べている状態なんだ」
「……」
「とても、外来のお客さんをもてなせる状況ではない。水産資源の奪い合いで戦闘が起こっても不思議ではない。いや、一部ではもう小競り合いが起こっている」
「…… 漁獲量が減っている原因はわからないんですか? 火山活動とか?」
「火山活動は考えにくい。確かに起こってはいるが、今までと比べて、数が増えたり、規模が大きくなってはいない。むしろ、減っているくらいだ」
「…… あの……」
坊っちゃんは意を決したように言ってみた。
「あの、肉食魚は食べられないんですか? 凄くたくさんいたけど……」
「肉食魚かぁ~」
エウフロシネの父は、忌々し気に言う。
「あいつらは、数は確かにいる。でも、獲ってもアンモニア臭くて、食えたもんじゃないんだ。売り物にもならない。その上、他の魚を山のように喰っちまう。嫌な奴だよ」
「そうですか……」
場を重苦しい雰囲気が覆いかけた。
◇◇◇
「もう、お父さん。何言ってんの~」
重苦しくなりかけた雰囲気を打破したのは、エウフロシネだった。
「お父さん。白身の魚のミンチを揚げたり、茹でて固めたものを食べたでしょう」
「えっ? うっ、うん」
「あれ、肉食魚だよ」
「何だって~」
エウフロシネの父は、心底、驚いた表情を見せた。
「あれ、おばあちゃんとお姉ちゃんとあたしで作ってたんだよ。全然、知らなかったでしょ?」
「知らなかった~。いや、ちょっと待てっ」
エウフロシネの父は、頭を少し前に下げ、右の手のひらで額を押さえる。
「肉食魚の漁なんかやったことないぞ。どこで肉を手に入れたんだ?」
「時々、弱った個体が海岸に流れ着くんだよ。そこを仕留めるの」
「それでも、あれは臭くて仕方ないだろう。そこはどうしたんだ?」
「ん~。手間だけど、ミンチにした後、水洗いと脱水を3回繰り返すの。それで臭いは殆ど無くなる」
「ふーむ」
エウフロシネの父は、考え込んだ。
「確かにあの揚げたり、すり身を固めたものは旨かった。売り物にもなりそうだ。だが、肉食魚の漁なんか、やったことないし、危険も伴う」
ここで、エウフロシネは満面の笑みを見せた。
「そこで、この子たちがいるんじゃないっ」
「えっ? えっ?」
急に振られて、驚く坊っちゃん。旦那さんは寝ぼけ眼のままだ。
「おおっ、そうだな。趣味で肉食魚フィッシングをするような人たちだ。頼りになりそうだ」
エウフロシネの父も笑顔になり、坊っちゃんたちの方を向き直る。
「そういえばご挨拶がまだでしたな。私はエウフロシネの父で、この島の島長をやっているティモンという者です。失礼ですが、貴方がたは?」
「この子が『坊ちゃん』。隣のおじさんが『旦那さん』だって」
エウフロシネが代わって、紹介する。
「ほうほう。『坊ちゃん』に『旦那さん』ですか。で、肉食魚漁は、ご協力いただけるんですね」
懸案事項に、解決の突破口が見えたとあって、ティモンも必死だ。
(何だか妙なことになっちゃったなあ)
坊っちゃんは考え込んだ。
(だけど、本来の目的である『洗脳機関』の調査が姿かたちとも見えないうちに、この惑星追い出される訳にもいかないし……)
「分かりました。僕たち二人協力させていただきます」
「やったーっ!」
坊っちゃんの答えに、ティモンとエウフロシネの父娘はハモリで、歓喜の声を上げた。
ティモンは、その場で飛び上がり、エウフロシネは坊っちゃんに抱きついた。
旦那さんは、ただただ、茫然として立っていた。
◇◇◇
事前協議で必要とされたのは、何より肉食魚に体当たりされても平気な大きくて頑丈な船。
場合によると、その海域から緊急離脱を迫られる可能性もあるので、可能な限り高速な船。
更に巨大な肉食魚を捕獲できる丈夫な網。
最後は、その網を肉食魚ごと船に引っ張りあげることのできる屈強な乗組員。
幸いに全てのものを揃えることが出来た。乗組員などは昨今の漁獲高減少に対して肉食魚に憎しみを抱く多くの荒くれ海の男たちが続々立候補し、ティモンが調整をかける程になった。




