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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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43/230

43 これがギャグでないところが凄いんだよな

 その少女は、いつもの通りに海岸を散策しながら、食べられそうな海藻や貝類を拾い集めていた。


 年の頃は、10歳くらい。白い肌に金髪。背の高さは130くらいだろうか。


 「あ」

 少女は小さく声を漏らした。


 海岸に人が倒れている。

 

 「男の子だ。あたしと同じくらいの年かな?」


 黒い髪。この島では見ない顔だ。きっと他から来たのだろう。


 脇に座り、頭から首にかけて、そっと触れてみた。


 「温かい。生きている」


 ◇◇◇


 「うっ、う~ん」

 刺激を受けて、少年は声を上げた。


 そして、ゆっくりと体を起こし、眼を開けた。


 少女はゆっくり笑いかけて言った。

 「おはよう」


 「あっ、おっ、おはよう」

 少年は戸惑いを見せながら、挨拶を返した。


 「はじめまして、あたしの名前は『エウフロシネ』。貴方の名前を教えて」


 「ぼっ、僕の名前は『坊っちゃん』」


 「『ボッチャン』っていうの、面白い名前だね」

 エウフロシネはころころと笑った。


 坊っちゃんは戸惑っていた。今まで会ったことのないタイプの少女だったからだ。


 「ねえ、貴方、この島の子じゃないよね。どこから来たの?」


 「ほっ、他の惑星(ほし)から」


 「他の惑星(ほし)から、いいなあ。宇宙(そら)を越えて来たんだね」


 「うっ、うん。そうだね」


 「でも、あたしのお姉ちゃんも、今、他の惑星(ほし)で勉強してるんだよ。あたしもいつか行くんだ。他の惑星(ほし)に」


 「そうなんだ」


 「ところで、貴方一人なの? 大人の人は一緒にいないの?」



 ◇◇◇



 「あっ!」

 坊っちゃんは、ここで初めて思い出した。


 (旦那(だん)さんは? 一緒に泳いできたはずなんだけど)


 旦那(だん)さんが、チャージオンして、記憶を失った後、坊っちゃんは、肉食魚を射殺しまくった。


 そして、脱出口が見えた時に、ただただ海中に浮いていた旦那(だん)さんを促し、最寄りの陸地に泳いでいったのである。


 (とっ、とにかく捜そう)


 坊っちゃんは、周囲を見回したが、その姿は見受けられない。


 (旦那さん(あの人)のことだから、そう簡単に死なないとは思うけど…… どこか別の海岸に流れ着いたかな?)


 その時に坊っちゃんの足先に、何か柔らかいものが触れた。


 (ま、まさか)


 足先にいたのは、まさに旦那(だん)さんだった。


 「あっ、それも人だったんだ。体細いし、髪の毛ボサボサで、おまけに体中に海藻がついてるから、気づかなかったよ。流木に海藻がたくさんついてるのかと思った」


 (うわー。言葉は柔らかいけど、エウフロシネ(この子)の言ってること、ラティーファ(おねえちゃん)シラネ(姐御)に匹敵するきつさだよ)

 坊っちゃんはそんなことを考えながら、旦那(だん)さんに触れてみた。


 旦那(だん)さんも、坊っちゃん同様、刺激されると、むくりと起きだした。


 「ここは誰? 私はどこ?」


 「(これをギャグでやってない所が凄いんだよな)ここは惑星『アクア3(スリー)』、貴方は旦那(だん)さん」


 「旦那(だん)さん? アイマ ダンサン?」


 「オー、イエー。ユーアー ダンサン」


 「あははははは」

 後ろでは、エウフロシネが笑い転げている。


 「貴方って、本当に面白いのね。初めて見たよ。こんな面白い男の子」



 ◇◇◇



 「エウフロシネ。その人たちは?」

 後ろから、40代と思われる男性が姿を現した。口ひげを蓄え、どことなく威厳もある。


 「あっ、お父さん。この人たち、他の惑星(ほし)から来たんだって」


 「ほう。他の惑星(ほし)から」

 エウフロシネの父の言葉からは警戒心が感じられる。


 (無理ないよな)

 坊っちゃんは思った。


 「失礼ながら、この惑星(ほし)にはこれと言った特産物もないし、観光名所もない。何しに来られたのかな?」


 (えーと)


 ここで「洗脳機関」を探りに来たと言う訳にはいかない。相手が関係者でない保証はないのである。


 「に、肉食魚を狩りに」


 「肉食魚? ああ、ガレオスのことですか。本当のフィッシング好きは確かに時々来ますね。マニアってのは凄い」


 (なんか苦し紛れに言ったことが通ったみたい)

 坊っちゃんは、ほっとした。


 「だけど……」

 エウフロシネの父は、ここで声をひそめた。


 「悪いことは言わない。早くこの惑星(ほし)を出なさい」




 

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