43 これがギャグでないところが凄いんだよな
その少女は、いつもの通りに海岸を散策しながら、食べられそうな海藻や貝類を拾い集めていた。
年の頃は、10歳くらい。白い肌に金髪。背の高さは130くらいだろうか。
「あ」
少女は小さく声を漏らした。
海岸に人が倒れている。
「男の子だ。あたしと同じくらいの年かな?」
黒い髪。この島では見ない顔だ。きっと他から来たのだろう。
脇に座り、頭から首にかけて、そっと触れてみた。
「温かい。生きている」
◇◇◇
「うっ、う~ん」
刺激を受けて、少年は声を上げた。
そして、ゆっくりと体を起こし、眼を開けた。
少女はゆっくり笑いかけて言った。
「おはよう」
「あっ、おっ、おはよう」
少年は戸惑いを見せながら、挨拶を返した。
「はじめまして、あたしの名前は『エウフロシネ』。貴方の名前を教えて」
「ぼっ、僕の名前は『坊っちゃん』」
「『ボッチャン』っていうの、面白い名前だね」
エウフロシネはころころと笑った。
坊っちゃんは戸惑っていた。今まで会ったことのないタイプの少女だったからだ。
「ねえ、貴方、この島の子じゃないよね。どこから来たの?」
「ほっ、他の惑星から」
「他の惑星から、いいなあ。宇宙を越えて来たんだね」
「うっ、うん。そうだね」
「でも、あたしのお姉ちゃんも、今、他の惑星で勉強してるんだよ。あたしもいつか行くんだ。他の惑星に」
「そうなんだ」
「ところで、貴方一人なの? 大人の人は一緒にいないの?」
◇◇◇
「あっ!」
坊っちゃんは、ここで初めて思い出した。
(旦那さんは? 一緒に泳いできたはずなんだけど)
旦那さんが、チャージオンして、記憶を失った後、坊っちゃんは、肉食魚を射殺しまくった。
そして、脱出口が見えた時に、ただただ海中に浮いていた旦那さんを促し、最寄りの陸地に泳いでいったのである。
(とっ、とにかく捜そう)
坊っちゃんは、周囲を見回したが、その姿は見受けられない。
(旦那さんのことだから、そう簡単に死なないとは思うけど…… どこか別の海岸に流れ着いたかな?)
その時に坊っちゃんの足先に、何か柔らかいものが触れた。
(ま、まさか)
足先にいたのは、まさに旦那さんだった。
「あっ、それも人だったんだ。体細いし、髪の毛ボサボサで、おまけに体中に海藻がついてるから、気づかなかったよ。流木に海藻がたくさんついてるのかと思った」
(うわー。言葉は柔らかいけど、エウフロシネの言ってること、ラティーファやシラネに匹敵するきつさだよ)
坊っちゃんはそんなことを考えながら、旦那さんに触れてみた。
旦那さんも、坊っちゃん同様、刺激されると、むくりと起きだした。
「ここは誰? 私はどこ?」
「(これをギャグでやってない所が凄いんだよな)ここは惑星『アクア3』、貴方は旦那さん」
「旦那さん? アイマ ダンサン?」
「オー、イエー。ユーアー ダンサン」
「あははははは」
後ろでは、エウフロシネが笑い転げている。
「貴方って、本当に面白いのね。初めて見たよ。こんな面白い男の子」
◇◇◇
「エウフロシネ。その人たちは?」
後ろから、40代と思われる男性が姿を現した。口ひげを蓄え、どことなく威厳もある。
「あっ、お父さん。この人たち、他の惑星から来たんだって」
「ほう。他の惑星から」
エウフロシネの父の言葉からは警戒心が感じられる。
(無理ないよな)
坊っちゃんは思った。
「失礼ながら、この惑星にはこれと言った特産物もないし、観光名所もない。何しに来られたのかな?」
(えーと)
ここで「洗脳機関」を探りに来たと言う訳にはいかない。相手が関係者でない保証はないのである。
「に、肉食魚を狩りに」
「肉食魚? ああ、ガレオスのことですか。本当のフィッシング好きは確かに時々来ますね。マニアってのは凄い」
(なんか苦し紛れに言ったことが通ったみたい)
坊っちゃんは、ほっとした。
「だけど……」
エウフロシネの父は、ここで声をひそめた。
「悪いことは言わない。早くこの惑星を出なさい」




