42 飢えてやがんな
「アクア3」は広大な海に、島々が点在する惑星である。
「あそこに降下しましょう。比較的、大きそうな島だし、集落もありそうだ。人と接触しなければ、調査も進められませんしね」
「よしっ、行こう」
機長の指示に、二人は降下を開始した。
そして、着陸までに、お約束どおり強風が吹き、海へと運ばれた。
「やっぱり、こうなったか」
機長は呟いた。
「通信員。本部に報告。潜入予定者2名『アクア3』の大型の肉食魚が生息するという情報のあった海域に着陸予定」
「機長。本当にそんな報告していいんですか?」
「いいんだ。あの二人は、強いものがいるところに吸い寄せられて行くんだから」
◇◇◇
本当にいた。
海中から強いものの気配が大きく伝わってくる。
「いるねぇ」
坊っちゃんはぽつりと呟くと、レーザーブラスターを抜いた。
「いるいる」
旦那さんは、レーザーセーバーを抜刀した。鈍く光りだしている。
やがて、海面に数えきれない程の大型の肉食魚が顔を見せていることが視認できた。
坊っちゃんは、レーザーブラスターを連射し始める。
水しぶきが上がる。坊っちゃんに射殺された肉食魚を、他の肉食魚が争って食べているのだ。
何頭かの肉食魚がジャンプを始めた。
他の肉食魚の死骸にあずかれなかった肉食魚が、旦那さんと坊っちゃんを狙ってくるのだ。
◇◇◇
「飢えてやがんな」
旦那さんは呟いた。
人間に調教されていない野生動物は、通常は闘争本能より、生存本能が優先する。
旦那さんたちが強いと見るや、遠巻きにすることが普通だ。
それを相変わらず突撃してくるということは、それだけ食に切羽詰まっているということだろう。
旦那さんは、レーザーセイバーを振り、ジャンプして来る肉食魚から、自身と坊っちゃんを守る。
坊っちゃんは、海面に集まる肉食魚を次々射殺する。その死骸を食するべく新しい肉食魚が集まる。
悪循環のようにも感じられるが、肉食魚を倒さなければ、狙われるのは自分たちだろう。
坊っちゃんは一心に連射を続けている。
会話をする余裕もないようだ。
(この海域にいる肉食魚が、俺たちより死骸を食うことで満足するまでは、この戦闘は終わらねぇな)
旦那さんは思った。
◇◇◇
不意に旦那さんのレーザーセイバーが強く光りだした。
「あ」
坊っちゃんが久しぶりに口を開いた。
(来るっ! 来るぜっ!)
他の肉食魚の3倍を超える大きさはあるだろう。
まさに「ミサイル」のようだった。
一撃目は、旦那さんも坊っちゃんも回避するのが精いっぱいだった。
(おおっ!)
旦那さんはレーザーセイバーが熱も帯びだしているのを感じた。
(来てるっ!)
旦那さんのそんな気持ちを知ってか知らずか、巨大な肉食魚は旦那さん一人を狙ってジャンプしてきた。
またも、旦那さんはギリギリで回避したが、今度は、巨大な肉食魚は旦那さんのパラシュートに激突した。
(やばいっ、引っ張られるっ)
旦那さんは、パラシュートを外し、既に坊っちゃんが射殺した肉食魚を足場に、いったん海面に降りた。
急に、旦那さんに、パラシュートを外された巨大な肉食魚は勢いよく海面に激突した。
だが、巨大な肉食魚はダメージを受けた様子もなく、みたびジャンプして旦那さんに、襲い掛かって来た。
(いいね。いいねぇ)
既にレーザーセイバーは眩いばかりに輝いている。
旦那さんは、レーザーセイバーを真正面に構え、巨大な肉食魚を待ち構えた。
「来いっ! この海の主っ!」
今度こそ、巨大な肉食魚と旦那さんが激突すると思われた直前、旦那さんは回避した。
「ごめんな。さっきはちょっと足りなかった。だが、今度は……」
旦那さんは、レーザーセイバーを構え直した。
巨大な肉食魚は、四度目の突撃をかける。
「こうなりゃあ人も魚もねぇな。その強さに敬意を表すぜ。主よ。俺がお前のエサになるか、お前が蒸発するか、勝負だっ!」
巨大な肉食魚と旦那さんは、四度目にして、ついに激突した。
雄たけびが上がる。
「チャージオーーーンッ」
真っ白な光の柱が立ち昇り、巨大な肉食魚は光の中に溶けた。
「さあて」
坊っちゃんは、独り言を呟いた。
「後は僕のソロプレイか。まだ、結構いるね。魚たち」




