表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/230

40 ひょっとして、あたし、馬鹿にされてます?

 「えっ? 本当に砂漠の王女様(プリンセス)じゃないんですか?」

 女子学生の問いに、ラティーファは苦笑して答えた。


 「違う。違う。あたしの惑星(ほし)は、『ビル・エル・ハルマート』と言って、銀河の辺境にあるの。そこには王族はいなくて、12の部族の連合体なの。あたしは、その中の一部族の(おさ)の孫娘ってだけ。ま、シナン君はあれでも部族長だから、あたしよりは偉いか」


 「そうだったんですか。それは失礼しました」

 女子学生はがっかりしたようで、下を向いた。


 「いや。何だか期待させて、ごめんね。自己紹介がまだだったね。あたしは『ラティーファ・ラフマーン』。出身地は、砂の惑星『ビル・エル・ハルマート』っと言っても知らないよね」


 「知ってます! 『ビル・エル・ハルマート』。私の憧れの惑星(ほし)なんです。行ってみたいです」


 「へ?」

 目を輝かして語る女子学生に、ラティーファは絶句した。だが、何とか言葉を継いだ。


 「あの、本当、砂と岩しかなくて、何にもないところですよ?」


 「『砂』と『岩』。憧れます。水なんか全然ないんでしょう?」


 「はい。僅かな水があるところに、人がしがみついて生きてるようなところで……」


 「水が僅かしかない! 憧れます」


 「えー、えーと、ひょっとして、あたし、馬鹿にされてます?」

 ラティーファの素朴な疑問に、女子学生は笑い出した。


 「あははは。ごめんなさい。私の方こそ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私の名前は『エウフェミア』。出身は、水の惑星『アクア3(スリー)』です」


 「『水の惑星』? 何か、そっちの方がうらやましい感じがするんですけど?」


 「あははは。『砂の惑星』の人には、そう思えるかも。でもですね」


 エウフェミアの語る「アクア3(スリー)」の実情は、「ビル・エル・ハルマート」と比較しても、過酷なものであった。


 銀河に3つ水ばかりで、殆ど陸地のない惑星があった。発見順に「アクア1(ワン)」「アクア2(ツー)」「アクア3(スリー)」と命名された。


 (せっかく豊富な水があるのに、植民できないのはもったいない)


 そう考えた銀河帝国政府は、3つの惑星で人工的に海底火山を噴火させ、陸地を作り、希望者に植民させる計画を立てた。


 「アクア1(ワン)」と「アクア2(ツー)」では、その計画は成功した。


 「アクア1(ワン)」では、豊富な水を背景にした農業、水産業とリゾート観光が発展した。 


 「アクア2(ツー)」では、やはり豊富な水を背景にした製造業が発展した。


 だが、「アクア3(スリー)」では……


 計画では沈静化する筈の火山活動がいつまでも収まらなかった。更に、他の二つに比べ、波による浸食活動が激しく、僅かな陸地はすぐに削られていった。


 外資も気象災害の懸念の大きい「アクア3(スリー)」への投資を回避した。


 かくて、「アクア3(スリー)」は小規模な水産業に依存しながら、僅かな収入を防潮工事に奪われ続ける貧しい惑星(ほし)であり続けたのである。



 ◇◇◇



 (あたしの惑星(ほし)と同じだ)

 ラティーファは思った。


 (いや、あたしの惑星(ほし)の方が随分とましだ。ミッドラント卿が出たおかげで、航宙機産業が栄え、また、復活しようとしている)


 「私が『ビル・エル・ハルマート』に憧れる訳、わかりました?」

 エウフェミアは微笑した。


「うん。ごめんね。『馬鹿にしてる?』なんて言って」

 ラティーファは、頭を下げた。



 ◇◇◇



 「いいんです。私は……」

 エウフェミアは空を見上げた。


 「期待されて、この大学に来たんです。学費も安くないけど、両親以外の惑星(ほし)の人もお金を出し合ってくれて」


 「……」


 「ところが入学してみてびっくりです。みんな、成績優秀だし、『ビル・エル・ハルマート』出身の人なんか、毎週、女の子とお酒飲んで、成績トップだし」


 「いやいやいやいや」

 ラティーファは全力で右腕と首を左右に振った。


 「いっ、いっ、いっ、いいですかぁ~? エウフェミアさ~ん」


 エウフェミアは何でカタコトになるんだろうと疑問に思ったが、(うなず)いた。

 「はい」


 「あたしぃも、『ビル・エル・ハルマート』出身ですがぁ~、はっきり言って、シナン(あれ)は異常でーすっ」


 「はっ、はあ」


 「言ってみればぁ、シナン(あれ)は『勉強とナンパの変態』で~すっ」


 「べ、べんきょうとなんぱのへんたい?」


 「そぅで~す。あたしぃの後に続いて、言ってみてくださぁい。『勉強とナンパの変態』」


 「勉強とナンパの変態」


 次の瞬間、二人は爆笑地獄に陥っていた。


 「らっ、らっ、らっ、ラティーファさん。何なんですか? 『勉強とナンパの変態』って?」


 「しっ、知らないっ。気が付いたら、口に出してた」


 二人はしばらくの間、笑い転げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >僅かな収入を防潮工事に奪われ続ける なんだか難しい宇宙の問題よりこちらの方がリアルで怖いです (;'∀') ひぇ~。 [一言] 武力の2TOPを派遣すると、後の経費の報告が怖そうですね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ