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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第三章 水の惑星Ⅰ

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38 ビンゴかよぉ~

 「坊っちゃん。前回は長かったねぇ。もう、帰って来ないかと思ったよ」


 偵察局本部の事務室。坊っちゃんは話好きの事務員パオラに捕まっていた。


 (あちゃあ、捕まったかぁ。しばらく帰ってなかったから、こりゃあ、長くなるかも)

 坊っちゃんは内心あわてたが、もちろん、そんなことはおくびにも出さず、

 「いつもに増して、いろいろあったからねぇ」

 と笑顔で返した。


 「それにしたってさぁ、あれよ、あれっ! そうっ、シラネちゃんっ! 何でも玉の輿に乗ったんだって?」


 「うん。社長夫人だもんね」


 「なんかさあ、結婚相手の写真見せてもらったの! そしたらさぁ、何と! 金髪のすらっとした美青年じゃな~いっ。その上、エリートと来たもんで、『偵察局(うち)』の事務員の若い()たちなんか、も~、『うらやましい』『うらやましい』と大騒ぎっ!」


 「……」

 (この話いつまで続くんだろ?)


 「だけどさぁ、よく局長も結婚退職許したよねぇ~。だってさ~、ほらっ、あの()っ、局長のお気に入りだったじゃな~い。そりゃ、成績も抜群だったけどさぁ~。てっきり、結婚しても残ってくれって、泣きつかれるかと思ったよ~」


 「……」

 (ミッドラントCEOが引き抜いたという話は 黙っておこう。どうせ、話が長くなるから)


 「だけどさぁ、こうなると、あのシラネちゃんの兄貴! あのムサ男の方も何とかしないとね~。何かいい話ないの?」


 「ま、なくもないようですが……」


 「え~っ。本当~っ。おばさんに教えてっ、教えて~っ。誰にも言わないからぁ~」


 (しっ、しまったぁ~)

 坊っちゃんは(本気(マジ)で)後悔した。


 (言葉の選択を誤ったぁ~。何にもないと言うと、じゃあ、おばさんがお見合いをセッティングするとか言いだすかと思って、なくもないと言ったけど、大失敗だぁ~)


 パオラの両眼は爛々と輝いていた。


 それはあたかも格好の獲物を見つけた飢えた狼のようだった。


 この場で、誰にも言わないという言葉ほど信用できないものはない。今日のこの時刻を考慮した場合、明朝には事務部門の女性職員全員が知っていることだろう。


 「ぼ、僕も、詳しくは知らないんですよ。噂でちらほら聞いたくらいで……」

 坊っちゃんは、あわてて事態の収拾を図る。


 「本当~? 本当は何か知ってるんじゃないの~? もったいつけないで、教えなさいよ~」


 (どうして、こういうことだけ嗅覚が鋭いんだ?)

 「本当に知らないんですよ。何か旦那(だん)さんを気にしていそうな女性(ひと)がいるって、聞いたくらいで」


 「じゃあ、その女性(ひと)って、誰よ? 教えなさいよ」


 「パオラさんの知らない女性(ひと)ですよ。銀河の辺境の惑星に住んでいる」


 実は同じ星系の学術研究惑星に留学しているとは、口が裂けても言えない。言ったら、『あら、近いじゃない。今度、航宙機乗って、会いに行ってくるわ』くらいのことを言いだしかねない。


 「ふ~ん」


 まだまだ、納得していないようだ。これは話題を変えねば……。


 「ところで、パオラさん。エンリコ兄ちゃんは元気ですか?」


 「エンリコ~?」


 エンリコとは、パオラの息子で、坊っちゃんより5つ程度年上である。坊っちゃんが幼少の頃、よく遊んだ間柄だ。


 「エンリコねぇ」

 パオラはいったん溜息をついたが、マシンガントークはすぐ復活した。


 「エンリコはねぇ。思春期というか、何というか、最近、あたしと口きいてくんないのよね~」


 「……」

 (それは、パオラさん。貴方がずけずけと『好きな()いるんでしょ?お母さんに教えなさいよ。応援してやるから』とか聞いているからでは……)


 「坊っちゃん。エンリコに言ってやって『お母さんには、何でも話しなさい。恋の悩みとか聞いて、応援する』と言ってたって」


 (ビンゴかよぉ~)

 坊っちゃんは(本気(マジ)で)逃げ出したくなった。


 「あっ、もう、こんな時間。局長に呼ばれてたの忘れてた。パオラさん、またね」

 坊っちゃんはダッシュで逃げ出した。


 「あっ、待ちなさいっ。話はまだ終わっていない」


 坊っちゃんは、それはもう必死で逃げて行った。



 ◇◇◇



 大学の寮は快適だ。


 個室で、当然、バストイレはついているし、通信環境も整っている。


 食事は朝7時から夜10時までやっている食堂で摂ってもいいし、個室備え付きのキッチンで調理しても良い。


 だが、銀河屈指の名門大学だけに、好成績を収めようとすると、かなりの努力を要するのも事実である。


 その厳しさに学生の中には好成績を収めることを断念し、努力を放棄する者も多い。


 しかし、ラティーファやシナンたち留学生はそうはいかない。


 学費等諸費用全部ミッドラントCEOが負担しているのである。


 成績が落ちれば、代わりはいくらでもいると言われている。


 さすがのラティーファも心が折れそうになることもある。


 そんな時の相談相手は、決まってシラネだった。


 だが、シラネも多忙だ。


 以前より格段に良くなったとは言え、砂の惑星の治安維持は彼女(シラネ)の仕事だ。


 他に夫であるミラーの仕事、宙港の拡張工事、航宙機工場の建設工事、建設作業員の雇用、雇用した建設作業員のための宿泊施設の建設、生活のための商業用施設の誘致等々のフォローも彼女(シラネ)の仕事だ。


 (シラネさんは、何でも相談していいとは言ったけど、少しは自立しないとなぁ)

 ラティーファはそんなことも考える。


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― 新着の感想 ―
[一言] 事務員のおばちゃんが、とてもそれぽかったです(お見事) とてもいい学校にはいると定期テストがとても怖そうです……(´;ω;`)ウゥゥ
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