34 第二章エピローグ
「ところで、言い難い話だが」
ミッドラントCEOが切り出した。
「『偵察局』から連絡が入り、旦那さんと坊っちゃんを一度引き上げたいそうだ」
「やはり、そうか……」
長老は溜息をついた。
「いやでも、お恥ずかしい話だが、うちの惑星の治安はまだまだ安定しているとは言い難い。せめて、航宙機工場が本格稼働するまで、待ってくれないかね」
長老の頼みに対し、ミッドラントCEOは意外なところから切り返して来た。
「いや、治安のことなら、心配いらないんだよ」
「どういうことだ?」
長老の疑問に、ミッドラントCEOは説明を始める。
「航宙機工場の本格稼働の前に、駐在所が本社の子会社に昇格し、ミラー君が社長になるのは知ってるな?」
「うん。聞いている」
「ミラー君は社長になるのと同時に結婚する。相手は秘書のシラネ君だ」
「! 結局、シラネさんはミラー所長を選んだのか」
「そういうことだ。で、結婚と同時にシラネ君は、『偵察局』を円満退職し、新設の子会社に移籍する。
どうだ、この上なく心強いだろう?」
「ま、そりゃそうだが」
長老は口ごもった。所詮、治安のことなどいいわけに過ぎない。本音はラティーファのことだ。
「わかっている」
ミッドラントCEOは慰めるように言った。
「君が最愛の孫娘にそれを伝えるのはつらいだろう。私が言ってやろうか?」
「いやいい」
長老は否定した。これは嫌でも自分がやるべき仕事だろう。
「まあ、旦那さんが君の惑星に残る手立ては無くはない。旦那さんが『偵察局』を辞めればいいのだ」
「……」
「だが、考えてもみろ。旦那さんが豊かになった平和な惑星で勤勉に働く姿が想像つくかね?」
反射的に「ごくつぶし」という単語が頭に浮かんだ。一日中、部屋でゴロゴロし、全く光らないレーザーセイバーを見ては溜息をつく姿しか想像出来なかった。
「想像つかない」
「そうだろう。彼は『偵察局』に帰った方がいい。そして、君の孫娘の方が外へ飛び出した方がいい」
「!」
「最愛の孫娘を手放すのは嫌か?」
「いや、そうじゃない」
長老は思った。自分だってあの大空襲がなければ、第12拠点に帰らなかっただろう。そんな自分がラティーファを引き留める権利はない。
「君の孫娘と第8拠点首長のシナン君、他にも何人かいる優秀な若手を私が理事をしている大学に留学生として、受け入れたい」
「……」
「みんな優秀だ。だが、悲しいかな。外の世界を知らな過ぎる。私は彼らにその機会を与えたい」
「……」
「そのうえで、君の孫娘自身が、砂の惑星に帰るか、旦那さんを追いかけるか、はたまた、全く違う道を選ぶか、決めればいい」
「若者は羽ばたいていく……か」
長老は自嘲した。
「何を言ってるんだ。君は。年寄りだって、羽ばたくんだよ」
「え?」
「君の管理していた垂直離着陸航宙機。あれを君と一緒に研究開発したいと言っている若いエンジニアがわが社に何人いると思っているんだ?」
「! そうなのか?」
「希望している奴全員を垂直離着陸航宙機部門に張り付けたら、他の部門が回らなくなる位の人気だ。分かってるのか? 羽ばたく年寄り」
「ふふふ。有難う。君にはやられっぱなしだな」
「ふっ、そうだろうそうだろう」
「とは言えやられっぱなしも面白くないからな。一つ反撃させて貰おう。私は『航宙機工場』を受け入れるとは言ったが、『軍需用』とは一言も言ってないぞ」
「!」
「旅客機もあれば、輸送機もある。垂直離着陸など、一番の適性は『救急医療』だと思ってるぞ」
(! 最後の最後で、本当、反撃してきたな。これは一部計画の見直しも必要か)
ミッドラントCEOは内心、焦った。
チャージオン 第二章 完




