33 何でそんなにモテるんですか? ズルイ
(シナン、あの話を持ち出すつもりじゃあ)
「えっ、何? 謝らなければならないことって?」
ラティーファの問いに、シナンは笑顔で答えた。
「今度、僕たち結婚することになりました」
(かーっ、シナン、やっぱりぃぃ)
ラティーファはパニックになった。
「それは、おめでとって、えっ? えっ? えっ? シナン君、あたしのことが好きだって……」
シナンは笑顔のままだ。
「うん。だから、ごめんね。入院中、自分も強くならなきゃって、思っているうちに、強い人を尊敬するようになったんだ。それで、シラネさんにプロポーズしたんだ」
ラティーファは、シラネに詰め寄る。
「シラネさん。本当なの?」
シラネはラティーファから目をそらしながら話した。
「うんまぁ。プロポーズされたのは本当だ。でも、OKしてないぞ。それに、所長からもされたし……」
ラティーファは驚愕した。
「ええーっ。シラネさん、ミラー所長からもプロポーズされたんですかぁ~」
シラネもパニックになった。
「(しまったぁ。口が滑った)いやいやいや、でもまだ、両方とも返事してないし……」
「ズルイ」
ラティーファは、ぶんむくれた。
「何でそんなにシラネさんばっか、もてるんですか? ズルイ」
シラネは、慌ててフォローに入った。
「わっ、わっ、わっ、待ったぁーっ。ラティーファちゃんには、旦那さんがいるじゃない」
「それ? あっ」
ラティーファは、記憶喪失の旦那さんがどこかに行ってしまわないよう、手を繋いだままだった。
「ふふふ」
微笑したシラネだが、ラティーファはあることを思い出した。
「そう言えば、以前、シラネさん。旦那さんのことを『あたしの何か』って?」
「ん~? 『あたしの何か』ぁ~?」
シラネは思い出そうとした。
「あーあーあー」
すぐに思い出し、笑顔に戻った。
「どうせ、旦那さんは忘れちまうから、ラティーファちゃんに教えておくよ。旦那さんの本当の名前は……」
「本当の名前は?」
ラティーファは唾を飲んだ。
「『ホタカ・スカイ』。あたしの名前は前も言ったけど『シラネ・スカイ』」
ラティーファは衝撃を受けた。
「まさかっ? ふっふっふっ、夫婦ーっ?」
シラネは呆れた。
「何でそうなるの? あたしゃ独身だよ。そうでなきゃプロポーズされないって。旦那さんは、あたしの兄貴」
「あにき~? シラネさん、旦那さんのいもうと~っ?」
「そうだよ。それを旦那さんは、よりによって『姐御』『姐御』って、失礼な奴だよね~」
(ホタカ、ホタカ、ホタカかあ~)
ラティーファは旦那さんの本名を内心呟いていたが、やがて、笑いが止まらなくなった。
「どうしたの? ラティーファちゃん、急に笑い出したりしてさ」
シラネの問いに、ラティーファは笑いながら、答えた。
「だっ、だって、今更、ホタカさんなんて言えないよ。この人は、やっぱり『旦那さん』だよ」
シラネも応じた。
「あっはっは、そうだろっ。あたしもいつも旦那さんは名前負けしてるといつも思ってんだ」
ラティーファの笑いはいつまでも止まらなかった。いつしかシラネも一緒に笑い、笑い声はいつまでも続いていった。
◇◇◇
シナンの率いる部隊は、第10拠点を包囲した。
第10拠点からは人の気配がせず、発砲を含めた抵抗も全くなかったが、念のため、銀河中央から偵察局と星間警察の職員の到着を待ち、内部に入って行った。
やはり、中には人影は無かった。殆どの人員はミッドラント駐在所と第12拠点の攻撃に動員され、残った僅かな者も、敗戦の報と共に、何処かに逃走してしまったのだろう。
だが、内部調査の結果、凄まじい惨状が判明した。
拠点の地下は、深く掘り下げられており、正規部隊の駐在所の他に、おびただしい数の洗脳装置が見つかった。
問題はその奥だった。
急速な洗脳に耐えられず、精神崩壊を起こしたであろう者の数えきれない程の数の遺体が見つかったのだ。
「これはもう『戦争犯罪』だな」
誰かが言った。
最上階の居室には、ここの拠点の主マフディがただ一人生ける屍のように佇んでいた。
「生存していました。確保の上、本部へ護送します」
星間警察の職員は上司に報告していた。
かつて、ハサンに代わりこの惑星の覇者になろうとした男は、最後の大博打に敗れ、「戦争犯罪者」の称号を得ることになってしまったのだ。
護送の様子をたまたま来ていた宙港の周辺で目撃した長老は思った。
(マフディに最も大きな非があることは間違いない。だが、気の毒でもある。やはり『貧しい』ことがいけなかったのか……)
◇◇◇
「マフディが死んだ?」
長老は久しぶりにミッドラントCEOと無線で直接話していた。
「ああ、行った先の宙港で狙撃されたそうだ」
「それで、狙撃したのは何者だ?」
「宙港の警備員が追跡したが、更に別の者から狙撃されて死亡した」
「更に狙撃した者は?」
「空飛ぶセグウェイで逃げた。黒ずくめだったそうだ」
「それは……」
「そう。アブドゥルが狙撃された時と同じパターンだ」
「黒幕の機関から消されたか……」
「そうだろうな。せっかく黒幕の機関の手口を知る絶好の機会だったのに残念だ」




