表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第二章 砂の惑星Ⅱ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/230

32 士気は高いですよぉ~

 初めは、ラティーファが拠点の外に出たことに誰も気付かなかった。


 だが、彼女が旦那(だん)さんが戦っているところに近づき、大事に握りしめた「柄」を抜刀すると、旦那(だん)さんも黒ずくめの男たちもそれに気付いた。


 ラティーファは抜刀したレーザーセイバーを中段に構えると、力の限り叫んだ。


 「さあっ、こっちにもレーザーセイバー使いがいるよっ! かかって来なさいっ!」


 ラティーファは全身に冷や汗をかき、手足はがたがた震えていた。


 それでも、両足をしっかり踏みしめた。


 旦那(だん)さんはすぐ気付いた。

(あれは…… 俺が戦ったとかいうハリルが持ってたというものを、長老が研究用に保管してたものだ。なんて無茶を……)


 だが、黒づくめの男の斬撃は止まず、ラティーファの方には向かえない。


 もう一人の黒ずくめの男は激高した。

 「おんな~っ」


 「そいつはなぁ、素人(トーシロ)が簡単に持ち出して、いいもんじゃねぇんだよっ!」

 そう叫ぶと、ラティーファの方に突進した。


 (くっ)

 旦那(だん)さんと対峙している黒づくめの男はレーザーセイバーの力勝負に持ち込み、救援に行かせまいとする。


 (畜生。何をやってるんだ俺は。非戦闘員のラティーファに余計な心配をかけて、あんなことまでさせてっ)


 旦那(だん)さんのそんな悔しい思いを知ってか知らずか、もう一人の黒ずくめの男の斬撃は、ラティーファに迫らんとしていた。



 ◇◇◇



 どぉっ


 もう一人の黒ずくめの男は不意に倒れた。


 ラティーファの真後ろでは、坊っちゃんが左手で汗を()いていた。


 「間一髪間にあったね」


 もう一人の黒ずくめの男の額は、坊っちゃんのレーザーブラスターで射抜かれていた。


 「ふぃーっ」

 坊っちゃんは倒れ込んだ。


 「坊っちゃんっ」

 ラティーファは、坊っちゃんに駆け寄った。


 「坊っちゃんっ、坊っちゃんっ、ごめんね。あたしが無茶したから」

 そんなラティーファの声に、坊っちゃんは微笑して、答えた。


 「何言ってるの。お姉ちゃんが黒ずくめの男を挑発して、頭に血を昇らせたから、僕が撃てる隙ができたんだよ。それより、お姉ちゃん」


 「何? 何? 坊っちゃん?」


 「拠点の中では、冷たいことを言ってごめんね。僕の勇気が足りなかったんだ」


 「そ、そんなこと……」


 坊っちゃんは既に気を失っていた。


 「坊っちゃんっ、坊っちゃんっ」


 「ラティーファ」

 ラティーファの後ろには、長老が立っていた。


 「おじいちゃんっ」

 

 「安心しなさい。坊っちゃんは、精神力を使い果たして、眠っているだけだ。それより」

 長老は、旦那(だん)さんを指差した。


 「こうなった以上、旦那(だん)さんは『チャージオン』を使うぞ。そうなると、坊っちゃんが眠っている今、記憶を失った旦那(だん)さんを、連れ戻せるのは……」


 ラティーファは大きく(うなず)いた。

 「あたししかいない」


 「そうだ。しっかり見守りなさい。旦那さん(あのひと)の戦いを」



 ◇◇◇ 



 「貴様らぁ。よくもやってくれたなぁ」

 残った黒ずくめの男は激怒した。


 「そいつぁ、こっちのセリフだぜ」

 旦那(だん)さんも応じた。


 「確実な勝利のための合理性だぁ。それがうまく行かないと、逆ギレか? みっともないと思わないのか?」


 「うるさいっ!」

 黒づくめの男は旦那(だん)さんに強烈な斬撃を加えた。


 がっちり受け止めた旦那(だん)さんは、ほくそ笑んだ。

 「いいね。いいねぇ。やっぱり勝負は強い奴との一騎打ちに限るわ」


 「ほざけっ!」

 黒づくめの男の斬撃に、更に力がこもる。


 「来た来た来たぁ~。次で行くぞっ」

 旦那さんは、大きく間合いを取り、助走をして、大上段に構えて、レーザーセイバーを振り下ろした。


 「チャァァァァジィオォォォン」


 辺り一面、真っ白な光に包まれた。黒ずくめの男は光の中に溶けていき、今度は再び姿を現すことはなかった。



 ◇◇◇



 真っ白い光が徐々に晴れてくる。ラティーファは身構えた。


 「さぁて、これからが、あたしの仕事だよ」


 記憶を失い、戦場に(たたず)旦那さん(むさい男)を見つけると、ラティーファはミラーがやったように、後ろから羽交い絞めにした。


 記憶を失い、茫然としている旦那(だん)さんを捕まえるのは、じたばた抵抗したシラネの時より、容易だった。


 「アメル、ムラト。後はお願い」


 「はい」


 ラティーファは残った攻撃軍の対処を、「砂の惑星治安回復部隊」の残留組に依頼した。


 敵も主戦力たる黒ずくめの男二人を失っていたが、味方も旦那(だん)さんと坊っちゃんが戦力として、使える状態にない。


 アメルとムラトは緊張して、銃剣を握りしめた。



 ◇◇◇



 だが、それは長く続かなかった。


 コンテナを積んだトラックが次々に戦場周辺に到着し、左右に開いた扉から多くの兵士たちが飛び出して来た。


 そのうち、一人が大音声で、名乗りを上げた。

 「第12拠点のみなさん、お待たせしました。僕たちは『援軍』です。僕は指揮官(コマンダー)の第8拠点首長シナンです」


 「『有能美人秘書』のシラネもいますよぉー」


 第12拠点からは大歓声が上がった。


 攻撃軍からは大きな溜息が漏れた。


 更にシラネがアナウンスする。

 「攻撃軍のみなさま、私がお連れした兵の方々は、第6第7拠点が陥落した時、第12拠点(ここ)にいる旦那さん(むさい男)に、自分や家族の命を救われた人たちです。士気は高いですよーっ。戦わない方がいいですよーっ」


 攻撃軍内部で、ざわめきが広がる。


 シラネのショーは続く。

 「では、攻撃軍のみなさんが武器を捨てて、投降しやすいよう、デモンストレーションを行いましょうっ! シナン君っ、お願いしますっ!」


 「はいっ、シラネさんっ」

 元気の良い返事と共に、シナンは左腕を中空に向けた。


 ズガガガーン


 轟音と共に、レーザーガンは発射された。


 その音と共に、攻撃軍の大半は、武器をその場に残し、両手を上げて、投降して行った。



 ◇◇◇



 「シラネさんっ、シナン君っ」

 右手で記憶喪失の旦那さんの左手を引っ張り、ラティーファは笑顔で二人の下を訪れた。


 「ラティーファちゃん。無事で良かった。議長と坊っちゃんも無事かい?」

 シラネの問いに、ラティーファは笑顔を崩さず、答えた。


 「ええ。おかげさまで。助けてくれて有難うございます」


 「あー、で、旦那さん(こいつ)は、また、記憶喪失かい?」


 「ええ。でも、今回で2回目だし、また、一から覚えさせますよ。へへへ」


 (まるで世話好き女房だねえ)

 シラネは内心そんなことを思った。


 「ラティーファちゃん」

 今度はシナンが声をかけた。


 「シナン君。助かったんだ。良かった。本当に。シラネさんが助からないなんて言うもんだから」

 ラティーファの言葉に、


 「あたしは『普通じゃ』助からないって、言ったんだ。見ろ。シナン(こいつ)の体」

 シラネは、シナンの左腕をラティーファの目の前に突き出した。


 「えっ、これは? 『レーザーガン』が腕になってるの?」


 「ああ、シナン(こいつ)の体の何割かは、もうサイボーグだ。サイボーグ化を嫌う人も多いが、シナン(こいつ)は自分からサイボーグにしてくれって、言ったんだぞ」


 「だって、その方が強くなれるからね。あっ、そうだ。ラティーファちゃんに謝らなければならないことがあるんだ」


 シナンの言葉に、シラネはギクリとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] サイボーグって手術して成るんでしたっけ? (;'∀') 事故でもないのに改造すると痛そうです (´;ω;`)ウッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ