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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第二章 砂の惑星Ⅱ

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30 こいつぁ骨だぜ

 「このままでは突破される。あたしも前線に出ます」

 ツナギのような戦闘服に着替えたシラネが駆け出していく。


 「シラネさん。ご武運を」

 ミラーは祈るような思いで、送り出した。


 (本当はまだ時間帯的に、切り札であるシラネさんを送り出したくない。もう少し温存していたい。だが、戦況が……)

 ミラーは、(ほぞ)を嚙む思いで悔しがっていた。



 ◇◇◇



 「あたしが前に出て、白兵戦をする。貴方たちはそのまま射撃とダイナマイト投擲を続けてっ」


 「えっ、それでは弾丸(たま)がシラネさんに当たります」


 兵の質問に、シラネはウィンクして、答えた。

 「貴方たちの弾丸(たま)は全部避けちまうよ。『有能美人秘書』を舐めるんじゃないよ」


 シラネは、旦那(だん)さん直伝の水平斬りで狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)を倒していく。


 兵の士気は上がった。


 黒づくめの男は静かに戦況を見守っていた。

 (やるな。これでは突破する前に、狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)は壊滅するかもしれん。しかし……)


 黒づくめの男は、ほくそ笑んだ。

 (ミッドラント駐在所()は切り札を切って、この状態だ。こっちはまだ切り札()が出ていない)


 (女。狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)を片付けて、疲れ切った状態で、一度、倒せなかったこの俺を倒せるというのかな?)

 黒づくめの男は、不気味に笑い続けた。



 ◇◇◇



 ミッドラント駐在所と第12拠点で、先鋒の狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)が壊滅したのは、ほぼ同時刻だった。


 夜は白み始めていた。


 そして、シラネも旦那(だん)さんも、肩で息をしていた。


 ミッドラント駐在所と第12拠点と第10拠点の正規部隊が対峙する中、黒づくめの男たちは、ゆっくりと腰を上げた。


 「さあて、前座の出番は終わったか。ショーはメインに入るな」

 黒づくめの男たちは、シラネも旦那(だん)さんに向けて、歩き始めた。



 ◇◇◇

 


 ミッドラント駐在所では、シラネが黒づくめの男と対峙していた。


 「ふっ。一度は勝てなかった相手に、そんな疲れ切った身体(からだ)で、もう一度、挑もうという根性にだけは、敬意を表してやる」


 黒ずくめの男の呼びかけに、シラネはしれっと答えた。

 「『物事、何でもやってみねぇとわかんねぇ』という偉い人の言葉を知らねぇのか?」


 「ほう。知らないな。誰の言葉だ?」


 「教えてやるっ! あたしの死んだ親父だよっ!」


 シラネはレーザーセイバーを抜刀した。


 それは(まぶ)しい程の輝きを見せた。


 黒ずくめの男も抜刀した。


 それは鈍く光っていた。


 「ははは。凄いな女。今にもチャージオンしそうじゃないか。ようし、相手してやる」


 レーザーセイバー同士のぶつかり合いが始まった。



 ◇◇◇



 「逆にここまで、ヒキョーに徹してくれると、すがすがしいわ」

 黒ずくめの男と相対した旦那(だん)さんは、そう言い放った。


 「誉め言葉と受け取っておこう」

 黒ずくめの男は言った。


 「より確実に勝利をものにするための合理性と言って貰いたいね」

 もう一人の黒ずくめの男は言った。


 そう、旦那(だん)さんと相対する黒ずくめの男は()()いたのだ。


 「おかげでよう、もう、こっちはビンビンだぜ」

 旦那(だん)さんは、煌煌(こうこう)と輝くレーザーセイバーを見せつけた。


 「それは良かった。我らの力を認めてくれたということだな」

 黒づくめの男は言った。


 「これで、俺たちも心置きなく、貴様を倒せるわ」

 もう一人の黒ずくめの男も言った。


 (チャージオンすれば、一人は倒せるだろう。だが、その瞬間、記憶喪失になっちまう。そうすれば、もう一人が俺を倒す。くそっ、悔しいくらい、ドラスチックで合理的だわ)。


 旦那(だん)さんは、レーザーセイバーを中段に構えた。


 黒ずくめの男二人もそれぞれレーザーセイバーを中段に構えた。


 (一回のチャージオンで二人いっぺんに倒すしかない。だが、そんなこと出来るのか? 向こうも当然、それを予想して来ているだろう)


 一人目の黒ずくめの男が旦那(だん)さんに斬撃を加える。


 旦那(だん)さんは、それを受け止めると、素早くレーザーセイバーを敵のそれと引き離す。


 二人目の黒ずくめの男の斬撃は、旦那(だん)さんを待っていてはくれない。


 旦那(だん)さんは、それも辛うじて受け止め、レーザーセイバーを引き離しにかかる。


 だが、二人目の黒ずくめの男は、引き離せまいとする。


 旦那(だん)さんは、それを強引に引き離す。


 そこにはもう、一人目の黒ずくめの男の斬撃がすぐそこに来ている。


 (こいつぁ、骨だぜ)

 旦那(だん)さんは内心嘆いた。



 ◇◇◇



 二対一の決闘は、攻防両軍の注視の下、展開された。


 ラティーファは、たまらず坊っちゃんに声をかけた。


 「二対一だなんて、坊っちゃん、何とかならないの?」


 坊っちゃんは、しばしの沈黙の後、口を開いた。


 「ごめん。お姉ちゃん。僕ではどうにも出来ない」


 「そんな。坊っちゃんだって、レーザーブラスターをあんなに使いこなしているじゃないのっ」


 坊っちゃんは、静かに続けた。

 「お姉ちゃん。何で僕の武器はレーザーセイバーじゃなくて、レーザーブラスター何だと思う?」


 「え?何でって、何で?」


 「僕はまだ体が小さい。だから、レーザーセイバーを持っても、打ち合う前に、体格差で圧倒されちゃうんだ」


 「……」


 「だから、僕が接近戦をしても、勝てないんだ」


 坊っちゃんは、うなだれた。


 ラティーファは、激しく後悔した。


 (あたしは何をやってんだ。自分だって何も出来ないくせに、こんな小さい子に頼ろうとして)


 (!)

 次の瞬間、何かを思いついたラティーファは、拠点の武器庫に向かった。



 ◇◇◇



 進展が早かったのは、ミッドラント駐在所の一騎打ちの方であった。


 (くっ)

 打ち合いを重ね、シラネにはわかってきた。


 (やはり、黒ずくめの男(こいつ)はチャージオンして、攻撃力を最大にしないと勝ち目がない。だけど……)


 (チャージオンしても倒せなかったら……)


 この男によって、ミッドラント駐在所の者は皆殺しだろう。


 (それでも、あたしはやるしかない。全精神力を込めて)


 レーザーセイバーを握る手により一層力を込め、助走距離を更に長くとり、大上段に構え、突進した。


 「チャァァァァジィオォォォン」


 シラネは掛け声と共に、強力な斬撃を黒ずくめの男に加えた。


 真っ白い光の柱が天空に昇り、黒づくめの男は声もなく、光の中に溶けていった。





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